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「……蒼?何か言った?」
いや、と首を横に振り、いつも通りの表情に戻った彼を不思議に思い、首を傾げる。
「俺を心配してくれてるんだ」
「…うん」
ナイフを床に置いて嬉しそうに頬を緩める姿に、安堵で倒れそうになる。
ホッと息を吐くと優しく抱き寄せられた。
服越しにとくんとくんと規則正しく鳴るその胸の鼓動を感じて、目を閉じる。
「困ってることがあるって言ったら、協力してくれる?」
その耳元で囁かれる風のように小さな呟きに。
「…うん。俺にできることなら、」
協力する、頷いてそう言おうと顔を上げようとした瞬間、カシャンと音がして首に何かが嵌められた。
その聞きなれた音に、首を覆う冷たい感触に、一瞬思考が働かない。
「………え、」
「やっぱり、まーくんにはこの色が似合うと思った」
この色…?
首元から繋がっているように見える鎖を愛しそうに撫でるその様子を見て、言葉の意味を理解する。
「…なんで、また、こんな、」
声が震える。
目が合えば、頬を触られてにこりと微笑まれた。
首に嵌められた冷たい感触に触れて、その綺麗な笑顔に泣きたくなる。
「…っ、ぁ、」
(…嗚呼、もう、なんでこうなるんだろう……)
…蒼は、俺の聞きたいことは絶対に教えてくれない。
蒼のことがわからない。
理解できない。
………何をどうしても、もう、昔のような関係には戻れないんだ。
そう思うと、悔しくて、悲しくて。
ぐっと唇をかみしめた。
眼球が熱い。
視界が滲んでいく。
「…………」
彼は、涙を堪える俺の顔を見て驚いたように一瞬瞬きをして、眉尻を下げた。
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