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…舌足らずすぎてわかりにくかったけど言いたかったことはなんとなく伝わった。
もう離すのも面倒でこの機会だからいっそのこと好き放題やってしまおうと頬をむにゅむにゅとひっぱっていれば、真冬は視線を俺から逸らしながら「…うー…その、つまり、くーくんがわらってくれたのはうれひい…から…もっといっぱいわらってくれたらおれももっとふわああってなって…むー…?」と頬をひっぱられていることなんかおかまいなしにまだぶつぶつ首を傾げながら呟いていた。
そんな真冬の様子を眺めながら意識は違うほうに向く。
(…今まで人のぽっぺなんかつねったことなかったのに、)
なんでこんなに触ってみたいと思うんだろう。
つい4時間前まで死のうと思ってたのが夢みたいだ。
そのくらい気分が良い。
人の顔に触ってみたいとかそんなこと、考えたことだって今までなかったのに。
今こうして今日あったばかりの奴のほっぺで好き放題に遊んでいる。
…本当に今日の俺はどうかしてる。
おかしい。
絶対におかしい。
でもそんなことより、もっと今は別の欲求が身体を襲っている。
(…やっぱり、まだ眠い…)
異常に瞼が重い。
きっとそのせいだ。
こんなにおかしいのは。
頬をむにゅーっと引っ張りながらそんなことを考えて、夢心地の意識で名前を呼ぶ。
「真冬」
呼んだ途端、「…っ、!」とピタッとその瞬間驚いたように目を見開いてぴたりと固まった。
「な、なま…っ、おれのなま…っ」とさらに発火寸前とでもいうくらい真っ赤にした顔でよくわからない言葉を離す真冬の首に後ろから腕を回して抱きしめるようにしてもたれ掛かる。
後ろから体重をかけられた真冬がバランスを崩して床に俺と一緒に倒れ込んだ。
「え…っ、え…?くーくん…?な、なな…、なに…?!」
「…ねむい…。すごいねむい、んだけど…」
どうしようもなく眠くてたまらないけど、ほんの少しの抵抗として真冬を動けない状態にして眠りたい。
真冬に俺を殺す気なんてないと思うけど、どうしても真冬が自由なままだと不安で眠れない。
脳のどこか冷めた部分がそうしろと言っていて、やっぱりこの体勢だと真冬がうまく動けないらしくジタバタと動いて逃れようとしてできてないのをなんとなく腕の中を確認して安堵する。
後ろから抱きかかえる姿勢のせいで、真冬の柔らかい髪が顔に触れた。
…いい匂いがする。
「……真冬のからだ、…やわらかくて…あったかい」
「…っ?!!?!!!」
ぼんやりとそんなことを考えつつ、あれ今口に出てた?いや流石に言ってないだろう…なんてよくまとまらない思考を浮かばせておいたすぐ後には、ああそうだお礼も言わないと…と今更そんなことを思いついて
あ、と小さく声を零した瞬間。
意識がぷつりと消えた。
―――――――
初めて誰かの傍で深い眠りに堕ちた。
…そして、その日の夜高熱を出した俺は、泣きそうな顔で慌てふためく真冬に一日中看病されることになった。
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