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どうせなら眠気も吹き飛ばしてしまおうとぐりぐりと勢いよく水気なんかなくなる勢いでタオルを髪の毛に擦りつける。


そうすれば「…っぬひゃぅああ…!!はげる…!くーくんおれはげる…!」と今までにないくらい大声を出して手足をジタバタとさせてながら逃げようとするから、「暴れたら一緒に寝ない」とぼそりと呟けば「…う…ゃ、それは、やだ」とピタリと静かになった。


それを見てなんだか気分が良くなった気がして、わざと髪の毛をぐちゃぐちゃにする勢いで拭いてやると、む、むと揺れる身体に必死に抵抗しながら変な声を出していた。

…ちょっと、面白い。

そんなに嫌ならもっと拭いてあげようとそんな感情に従ってタオルを動かしていると

不意にそのタオルを動かしていた手を白く小さな手につかまれた。


「くーくん」


ちょっと拗ねたような声。
俺の手を掴んだまま、真冬の身体は前を向いた状態で顔だけが上(俺の方向)に向く。


髪を拭かれていた真冬は床に座っていて、俺は後ろからその髪を拭くために若干膝たちだったから、真冬が上を向いたせいですぐ至近距離で向かい合う体勢になった。


「…(…あ、)」


その顔を見ればその瞳に薄く涙が滲んでいる。
揶揄いすぎた。それか力が強くて痛かったのかもしれない。
しまった、と後悔のような気持ちが湧き上がってきた。


(……やりすぎた)


泊めてもらう側の立場で、しかも今日初めてあったばっかりの奴に何やってんだ俺、と何度目の言葉かわからない言葉を自分に言い聞かせてようやくここで冷静になった思考回路に、でも今更やってしまったことはもう遅い。

とりあえず多分顔には出てないだろうけど内心めちゃくちゃ焦りながら謝ろうとして、でもどう謝ればいいかわからなくて思いつかない言葉に考え込んでいると、

真冬は涙目のまま俺を見上げてむぅと口を開いた。


「…くーくんのばか…いじわる」

「……」


――…ドクン



その顔を見た瞬間

今まで感じたことのないような感覚が全身を襲ってくる。

心臓の深い部分が、怖いくらい強い音を鳴らしたような…気がした。


「………」

「はじめてくーくんのわらったかおみれたのに、なんかふくざつ…」

「…笑ってなんかない」


とりあえず真冬のぷくーっとむくれた顔で放たれる言葉を否定しつつ、すぐに収まった感覚を疑問に思いつつ気のせいだったのかもしれないと思いなおした。


「……、」


なんだか落ち着かなくて適当にそのぷっくらしたお餅みたいな頬を思いっきりむにーっと引っ張って遊んでみる。

直後、真冬がそんな俺の動作にびっくりした顔をして、

その変化を見て、はじめて今の状況のおかしさに気づいた。


(……あれ、俺今なに、して…)


俺も自分の無意識の動作に驚いて頬を掴んだままで動きがとまる。


「……」

「………」


…おかしな、どこか気まずい沈黙が部屋を包み込んだ。


今更離すのもおかしい気がして、じーっとお互い視線を逸らさずにすごい近い距離のまま見つめ合っていると、何故かまた真冬の頬がぶわぶわとまた熱をもったのがみてわかった。

触れた指からその熱さが伝わってくる。

…肌が白いから赤くなると余計にわかりやすい。

数秒後、俺の目を見てた真冬の瞳がゆらゆらと揺れて視線が彷徨う。


「…っ、っ、…」

「……」


唇があわあわと何かを言おうと震えて、声になってない。
その直後沈黙に耐えきれなくなったのか若干裏返った声で爆弾のように一気に言葉を溢れ出させる。

すごいどもっていた。


「…ぁ、う……く…くく、くーくん…!あの、その、おれはべつにくーくんのわらったかおがいやであんなこといったんじゃなくて、」

「……?」

「その、でもくーくんがわらってくれたのはすごくすごくうれしくて、みてるとふわーってかんじで」

「……」

「でもふくざつっていったのは、それがおれで、くーくんがあそんでて、なんかいじわるなかんじでわらってたからで、」


もじもじとしながら、むぅと唇を尖らせて複雑な表情をする。


「で、でもでもそれもなんかかっこよくてふわああってかんじだったんだけど、…っ??…ぅ…?…おれなにいってるんだろう…またわかんなくなっちゃった…むうう…」


何を思ったのかはわはわと顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりしながら必死にその小さな唇と幼い知識で俺に一生懸命言葉を伝えようと頑張っている。
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