25(真冬ver)

***


「まーくん、まだ?」

「ま、待って、まだ…っ、ちょっと待って、すわってて」


部屋に取り付けられてるキッチン。
そこであせあせと慣れない手つきでご飯を作ってるおれに、少し揶揄うような口調の声がかけられ、更に焦る。


「そんな風に焦らされてもできません!」


ぷんすかと怒ってみる。
…振り向けば、境目の障子に背をもたれかけさせ、整った顔を綻ばせているくーくんがいた。

新調したらしい和服姿(もうめちゃくちゃ色気たっぷり格好良すぎて鼻血出るかと思った。出た。出てる)で、おれのあたふたしてる様子を楽しんでいるらしい。…なんと意地悪なやつだ。しかし格好いいから許しちゃう。くーくんにだけとくべつさーびす。


「奥さんみたい」

「…っ、」


甘やかな吐息まじりの声が耳元で聞こえた。
腕を腰に回されて、ぎゅっと抱き締められた格好でそんな口説き文句みたいな台詞を吐かれては堪らなかった。


「解いても良い?」

「だ、だめ!」


紺色エプロンの前側で落ちないように縛っているリボンを、するりと外そうとしてくる。
…くーくんの希望で、エプロンの下すっごい薄い浴衣着てるから、そこが解けるとまずい。色々まずすぎる。

えっちな手つきで触られ、うううと唸れば赤くなっているだろう耳をかぷりと甘噛みされる。「ぎゃ、えっち、なくーくん、だめ…」反論する声も弱かった。
くーくんにされると何でもまぁいいかって思っちゃいそうなところが怖い。


「…それで、くーくんは何しにきたんですか」


さっきから暇で仕方ないのか、構ってオーラが過ぎる。


「まーくんが心配で座ってられない」

「…べ、別に問題ないです!」


耳のすぐ傍でする息遣いも、
心地よい声の温度も、
…おれより背が高くて、抱き締めてくる身体にすっぽりとおさまって包まれてしまう感覚も、

全てに悶える。好き。大好き。

(あー、もう好きすぎて、やばい…)

けど、思った言葉を口にはしない。

…胸が、苦しすぎたから。

それがくーくんにとっては大した意味のない言葉だと分かっているから、…何も返さなかった。

泣きたくなったのも気のせいだ。

いつも通りの雰囲気。

…まるで数時間前の、あの暗い部屋で知らない人と会ったのも、…くーくんに窒息するようなキスをされたのもなかったみたいな二人だけの空間で。


「…オムライス、作ってくーくんに食べてもらう。すっごく頑張る」

「うん。楽しみにしてる」


泣きそうなのをごまかすためにいっぱいしゃべる。
少しかたことになってしまったけど、うん。頑張る。頑張れる。
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