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「…ん、」とこくこく頷き、促されるまま、本心が滑り落ちる。
「みたぐ、ない…っ、くーくんが、他の、女の人と、いるの、やだぁ…っ、」
せめてこんな泣きじゃくった顔を隠したいのに手首を押さえられてるせいでそれもできなくて、でも、今更そんなことどうだってよかった。
「…まーくん、どう思ったのか、全部教えて」
「…っ、う、ぅ…っ、」
優しい声音で返す彼の指先が、涙で濡れた頬をなぞる。
それから、そこに張り付いた髪を、おれの耳にかけるようにして、…触れて
その動きにぎゅっと瞑っていた瞼を開ければ、…彼の見透かしたように冷たい綺麗な瞳と目が合い、…こく、と喉が上下した。
「おれのほうがずっと一緒に、いたのに、くーくんがいないとだめなのに、おれ、おれのほうが、好き、なのに、…なんで、って、」
なんで、どうして、おれじゃないの。って、ずっと思ってる。今でも、
おれのほうが、おれのほうが、おれのほうが、おれのほうが、おれのほうが、おれのほうがくーくんがいないとだめだから、絶対に、澪よりもくーくんのこと好き、なのに、どうして
「おれじゃなくて、澪に、…あ、愛、して、るって、言わ、ないで、…っ、」
引き裂かれる。
心臓をぐちゃぐちゃにされる。
『おれ以外に触らないで。
見ないで。
笑わないで。
声をかけないで。
優しくしないで。
近くにいかないで。
抱き締めないで。
キスしないで。
…もう、澪とも…えっち、しないで。
それだけじゃなくて、
全部、全部くーくんのすべてがおれのものであってほしい。
どんな行為も、おれいがいにしないで。』
汚くて醜い、独占欲と執着に塗れている心の叫び。
泣きすぎてうまく声にもなっていない。
このぐちゃぐちゃでいっぱいで破裂しそうな気持ちを吐き出せれば楽になれるかと思ったのに、
拷問みたいな痛みや苦しみはどんどん底を知ることなく、ダムが決壊したように増していくばかりで
「ぐ、苦し、い、…っ、痛い、どうしたらいいの、くーくん、たすけて、しにたい、しんじゃう、好き、好き、好き」
零した言葉は留まることを知らず、胸から下腹部全部がぎゅーって痛くて、枯れるんじゃないかってくらい涙が止まらなくて、悲しくて、
「何でもする、から、…くーくんのためなら、なんでも、できる、から」
お願い。
おねがい。
おねがい、どうか、おれを
「おれ、おれだけ、を好きになって、他のひと、なんか見ないで…っ、くーくんはおれだけの、だから、」
もう遅い。
くーくんは他の女の人を選んでしまった。
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