鳥籠の雛
………
………………………
「…まーくん、また泣いてるの?」
「…う、うう…っ、」
ぎゅーってくーくんが抱き締めてくれてるのに、頭を撫でてくれてるのに涙が溢れてとまらない。
大好きなくーくんがおれだけのために時間を使ってくれて、
こうして傍にいてくれてるのに、…震えがとまらなかった。
一瞬止まったかと思ったのに、何かのきっかけで思い出したらまた同じ繰り返しだった。
「…そんなに怯えると思ってなかった。…怖がらせて、ごめん」
「う、う、ぅえ、…」
よしよししてくれてる彼の首筋に顔を埋め、泣きじゃくる。
(…怖い、なんてもんじゃなかった)
おれが澪のことで汚い気持ちをいっぱいぶつけちゃった後、
…『良かった』と零した彼が、その後に続けた言葉はおれの期待していたものとは全然違った。
「でも、あの時言ったことは…本心だから」
「…え?」
「俺を想って泣くまーくんは、凄く可愛くて…世界で一番綺麗だよ」
涙で濡れた頬を撫でる手は、優しくて、温かくて、
…両頬を包むようにして、まるで凄い大切なモノでも愛でるような仕草で、
おれの気持ちとは全然違う、彼の蕩けるように甘い表情や雰囲気に戸惑うばかりだ。
「…っ、」
「嗚呼、ごめん。世界で、なんて失礼だな。そんな小さな尺度で測れないくらい、めちゃくちゃ可愛い…」
クス、と笑みを零したくーくんに、涙とか、今の彼の言葉で勝手に熱くなった頬をほんの軽くすりすりむにーってされた。
それに一瞬舐められて「んん、」と慣れない感覚に声を漏らせば、眩しそうに目を細める。
…彼のその表情にぎゅーっと胸が狂おしくなって、すぐに瞼を伏せた。
「…でも、澪より、おれを選んでくれるわけじゃない」
「………」
その服にしがみついて、重く吐き出す。
…おれの言葉は否定されない。
わかってた。
だからこそ、くーくんの顔は見なかった。
きっと、困ったような表情をしているに決まってるから。
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