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可愛いって、綺麗って言ってくれても、それは意味のあることじゃない。
犬を可愛がるようなものだ。

(…ずっとこのままなんて、やだな…)

くーくんはおれを救ってくれない。

澪よりおれを好きになってくれるわけじゃなくて、
けど、おれをこの苦しみから解放してくれることもない。


「…ほんとに、おれを殺してくれないの…?」

「何度言われても、俺の返事は変わらないよ」


呆れたように吐息を零しながら頭を撫でる手は、昔と同じように優しい。

…こうしていると、どうやっても実感させられてしまう。

顔が美形なのは言うまでもないけど、おれを抱き寄せている彼の首筋はあまりにも美しい。
それに、…黒い着物の隙間から見える胸板も…綺麗なのに男らしくて、くらくらするような幻惑に目を伏せた。

甘くて思考を溶かすような良い香りも相まって、とろりと心奪われ、心臓が異様に高鳴る。
…なのに、どうしてか安心に似た気持ちになるのは、昔からの習性だからだろう。

瞬間、…気づいてしまった、もの。
――脳が、思い切り揺さぶられた、錯覚。
手足から血の気が引く。

…他の、人間の存在

小さく、彼の肌に残されている紅の印、
……その、所有を主張するような跡に、思うように、息ができない。

前についてたのより、濃い。
明らかに、…新しく て 


”俺が、まーくんの恋人になる”


(…くーくん、)


昔の…今では遠い記憶を呼び起こして、涙を滲ませる。


くーくんにこうしてもらうのは好きだ。
…自分が、くーくんにとって特別な存在なんだって…錯覚できるから。

けど、小さい子にお菓子を強請られた親のような対応をされるのは、…あまり心地よいものではない。


「絶対に俺はまーくんを殺さないし、…たとえまーくんが死にたいって言っても、…死なせたりなんかしない」


「おれが、しにたく、ても…、?」震える唇で問いかけた言葉に、「そうだよ」と髪を撫でながら昨日と同じ言葉で返され、…ぎゅっと唇を噛んで俯いた。

『殺してくれないなら、せめて解放してほしい。鎖を外して、外に出してほしい』と懇願しても、答えは同じだった。
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