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髪色も長さも変え、可憐で婀娜な雰囲気が増している。
慣れたようにくーくんの腕に手を回し、恋い慕うように頬を寄せる。
(なんで、)
なんで、今ここに澪が…っ、なんで、
嫌だ、
なんで、こんな、
あの日以来会ってなかったのに。
一番、会いたくないのに、
見たくない。
ずっと前から結ばれる運命だったように、絵になるほどくーくんとお似合いな澪に、…その、非情な現実をみせつけられたくない。
―――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ―――
あっという間に胸を占領する黒く汚れた感情に、思わず顔をそらし、俯く。
「もー、返事してよ」って覗き込むようにされて、…自然と、距離が近づいた。
ふわりと香る桃の匂いが、…脳を、犯す。
「……ぁ、」
ドクン、と心臓が歪に揺れた。
視界が、反転するほどの錯覚。
最近、くーくんに感じていたものを…現実にされた。
泣きたくなるほど、ぎゅーっと胸が締め付けられる。
後ずさる。
ふるふると、小さく首を横に振る。
思い知らされたくない。
毎日毎日、…この匂いをつけていた、相手。
「……っ、」
確信に変わった事実を否定したくて、近づいてくる澪に怯えるように、また、最早感覚のない足で後ずさる。
石鹸、だけじゃなかった。
(…やっぱり、…ずっと……)
……くーくんから、 澪の匂いがしてた…、
「…――…」
――移 り 香
その単語が脳裏をよぎって、悲鳴じみた音が零れる。
…それに澪から、香水とか石鹸とは違う、傍にいただけでは、…抱き合ったただけではありえない…、匂いが…
「…なに、して、た…の、…」
聞くな、
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