16

と、障子を開いてこっちを見下ろしている彼が、いた。


「っ、…くー、くん、?」


「うん」って、答えが返ってくる前に、鎖を引きずって枷のついている手を伸ばす。
転びそうになるのも構わず、急いで向かう。


「くーくん、おかえり、なさい…」

「っ、と、危ないよ、まーくん」


(…っ、くーくんだくーくんだくーくんだ…)

良かった。
今日もこっちに来てくれた。
おれのこと、覚えててくれた。

込み上げる感情のまま背中に腕を回して抱き締めれば、頭を撫でてくれる。


「ご飯、残ってるけどお腹空いてなかった?」

「ううん、空いてる、けど」


部屋の中を見たのか、聞いてくる声にふるふると首を横に振った。


「だって、くーくんいないし、多分、食べてないかもって、…」

「俺を、待っててくれたの?」


驚いたように、嬉しそうに、ほっぺたに触れる手の平。
大好きな感触と体温に「ん、」と頷く。

一緒に食べよ、って言おうと、

顔を上げて


「……っ、」


頬を緩ませ、優しく目を細める大好きな顔。
相変わらず信じられない程綺麗で、格好良くて、いつにも増して色気があって…見惚れてしまう。

…けど、すぐに、その艶やかな黒髪が微かに濡れているのに気づいた。

それに、いつもより浴衣を着崩して…惜しげもなく胸板を晒している。
僅かに見える鍛えられた腹筋も、晒されている肌全てが美しくて…頭がくらくらする。

鼻孔をくすぐる石鹸の香り。


「……」


と、何か、別の匂いに気づき、眉根を寄せる。
動揺する心を必死におさえつけた。

……朝と、着てる着物が違う。

(…また、お風呂入ってきたの?)


「ね、…くーく」


震える手で、
その、理由を問うために唇を動かし、


「まーふゆ、久しぶり」

「…っ、澪、…」


その後ろから、ひょいと現れた姿。
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