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胸板に顔を擦りよせればふわりと香る匂いに、…また、黒く汚れる感情が心を突き刺す。
「……戻ってきた時、いつも澪の匂いがするの…ずっと気づいてたよ」
昨日も、おとといも、その前も、その前も前も前も前も前も、ずっと帰ってくるのが遅くて。おれの前からいなくなる時間も増えて。
「っ、…えっちしてたから、なんでしょ…?」
頬を緩め、また刻まれる痛みに涙を零した。
鎖骨に吸い付こうとすれば、すぐ隣に澪との行為の跡があって。
…きっと、ここだけじゃない。
おれが今みていないところにも、沢山その証拠があるんだろう。
おれがいない、
くーくんと…澪だけの時間。
「……あは、は…、」
掠れた声で、笑う。
…こんなの、笑わずにはいられない。
「何回したの…?…って、もしかしてもっと多いのかな。身体がもたないって言ってたぐらいだから、十回以上、…?毎日してるみたいだから、数えきれるわけないか」
(…澪も凄く幸せな顔で笑ってて、嬉しそうだった)
そう言おうとした唇は動かない。
代わりに、詰るように別の台詞が零れ落ちる。
「澪とセックスできて、そんなに気持ち良かった?」
浴衣の下、…きっと澪と深く交わり、愛し合ったんだろうその『部位』に視線を向け、…以前自分とした行為を重ねて思い出す。
舐められた?
咥えられた?
……澪のナカに、いれたの…?
『………俺に、まーくんの全部をちょうだい…』
真剣な声で囁かれた…低く掠れた声音が蘇って、また、泣きそうに歪む胸が壊れたようにぎゅーって締め付けられた。
「…った…くせに、」
ぽつりと零れた声は、大粒の涙とともに堰を切ったように溢れ出す。
ダムが決壊するみたいに、これ以上壊れることができるものなんてないのに、まだ、何かを傷つけて、ぐちゃぐちゃにされる。
「…っ、おれとするって言ったくせに、うそつき、うそつき…っ、!!」
あの時に戻りたい。
お風呂で待ってるって、言ってたあの時に。
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