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こんな状況なのに、涙でぐちゃぐちゃにした顔を見られたくなくて、まだ自分の体裁を気にして俯いたままで、
「…っ、…なんで…?」
くーくんの服を強く掴んだ指を、離す。
「…おれ、…には…っ、してくれ…かっ…のに…」ずるずると、力を失くして床に座り込んだ。
「……っ、おれ、…と、えっちして…。澪と、する…なら、おれにも、いっぱい、し」
酷い嗚咽がまじり、醜い本音が零れる。
返事なんてわかってるから、聞きたくないのに、それでも安心できる答えを求めて言葉だけが先走っていく。
どうしても膝が震えて足に力が入らなくて、手を上に伸ばした。
涙でいっぱいで、どういう顔でくーくんがおれを見下ろしているのかわからない。
「…ね、ちゅ…ー、して…?…いつも、みたいに、」
壊れた人形みたいに泣きながら微笑んで、ぎゅーをせがむ時みたいに両腕を広げる。
…これだけじゃ、だめかもしれない。
くーくんに拒まれるかもしれない。
だから、狡いかもしれないけどまた、言葉を付け足す。
「ずっと傍にいてくれるって言ったよね…?くーくんはおれとの約束、破ったり、しないよね…?」
懇願し、震える声で脅しのように尋ねる言葉に、……少しして、腰を屈めた気配。
「…うん」
凛とした綺麗な声が、答える。
差し出した手に、低めの温度が、触れる。
…くーくんの、手だ。
びくっと震えれば、…今度はゆっくり優しく指が絡められて、
恋人繋ぎみたいにして重なる手の平。
「……っ、」
きゅって握り返して…じわ、と涙が滲み頬を伝った。
……ほら、やっぱり…こうしてくれる。
おれのお願いに、応えてくれる。
くーくんはやっぱり、おれのことを見捨てたりできない。
「んん…っ、」
ねだるように瞼を閉じれば、触れる吐息と…優しく重なった唇。
好き、好き、好き
(……くーくんが、好き、)
もっと絡めてたい。
ずっとこうしてたい。
くーくんの舌と交わって、思考も蕩けちゃって、そのまま溶けちゃいたい。
段々深くなるたびに息が荒くなり、熱気で汗が滲み、唾液が零れる。
……夢中だった。
押し倒して、くーくんの肌を舐める。
普段より着崩されている浴衣。
……惜しげもなく晒されている胸板も、僅かに見える鍛えられた腹筋も、今まで見た何よりも美しくて、綺麗なのに、
「……っ、…」
――奪われた。
全て、他の女に 汚された。
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