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まぁ、好きな相手にあんな顔で呼ばれたら誰だって浮かれるとは思う、けど。

あからさまにそんな態度しなくてもいいじゃないかと思ってしまう。


「どうする、って…くーくんは、どう思ってるの?」

「俺の答えは、前に言った通りだよ」


『まーくんがいてほしいって望むなら、一緒にいる』と、言外に伝えられた意味に、…少しばかりごく、と喉が上下した。

…あれは本気だったのかと、動揺してしまう。

だめって言ったら一緒にいてくれる?

けど、澪を好きなくーくんを留めるということは、くーくんを苦しめることにもなる。
それだけじゃない。澪にも同様に辛い思いをさせることになる。

どうしておれに選ばせるのかと、酷いことをさせようとするくーくんに泣きたくなる。


「…、行ったら」


『するの、?』って喉につかえた言葉は、引っかかったまま口から先に出ない。

少し離れた距離。
そこにいるくーくんを、見上げた。


「行けば、間違いなくそうなるだろうな」

「……っ、」


おれの表情から察している彼は、試すように妖艶なまでに美しい微笑みを零す。

どうする?と。
それでも、自分を手放すのかと。

選択肢をこっちにゆだねているくせに、まるで麻薬みたいに勝手に思考の主導権を奪われそうになる。


「…だ、っ、なら、それを、おれに決めさせるのは、狡い、…っ、」

「俺はここから逃げてもいいって言ったのに、それでも傍にいてくれるって決めたのはまーくんじゃないの?」

「……っ、」


距離を縮めるように傍にくる。
頬を擽るように撫でられ、近づく整った顔に頬が熱を上げた。

昨日の弱々しい雰囲気は欠片もなくて、婀娜な悪い男に掴まってしまったように最近は以前にも増して凄艶な色気を隠しきれていない。

「く、ーくん、は」と震える声で、問う。


「澪のこと、本当に、あい、…愛、して、」

「愛してるよ」

「……っ、」


違うって言ってほしくて聞いた言葉に、当然のように返される。

おれだって言われたことない。

……おれも、くーくんに言われたかった。

なのに、今、それを目の前で、別の人に向けて、口にして、


「また、泣きそうな顔してる」

「…っ、じて、ない…っ、」


言葉と裏腹にじわじわと目頭を熱くすると、…ふ、と少し困ったように笑みを零す。

だめって言ったら恨まれるに決まってる。
今よりもっと嫌われるに決まってる。

昨日あんな醜態を見られてしまったけど

それでも、くーくんにだけは、くーくんにだけは、これ以上、嫌いだと思われたくない。

そんなこと言えない。
言えるはずない。

顔を背け、後ろを向く。


「……い」


ぽつり、声を漏らした。


「…いい、よ。…行っても、」

「本当に?」

「……っ、」


それは本心かと確認される。

いいわけない。
でも、これ以外で、なんて言えばいいのかわからない。


「…っ、いい…!!行っても、いい…っ!!」


やけくそな気持ちで、勝手にすればいいと、咽ぶ。


「わかった」

「っ、」


容赦なく了承の返事が返され、顔を見られる前に一人で逃げるようにして部屋に戻った。
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