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予想できなかったことに驚き、腕で庇おうとして意識がそれた瞬間にまた殴られた。


「利用してやろうと思って使ってやったのに、失敗しやがって…っ!挙句の果てには殺しかけた相手にくーくんくーくん何事もなかったみたいに媚びてすり寄りやがって、ふざけんじゃねえよ…っ!!!」

「殺さない…っ、おれが、殺そうとするわけ、…っ、」


ない、はずなのに、
身体が、異様に顫動するように震える身体が、何かを蘇らせようとしてくる。

怖い。怖い。怖い。

目を開ければ、再び首を鷲掴まれた。


「今度こそ、アイツを殺して俺の元に戻って来い。家畜」

「家畜、じゃな、…っ、ぃ…っ、おれは、違、」

「俺を自分のモノにしようとしてその”くーくん”に何をしたか、幾ら忘れたふりしたって事実は変わんねえんだよ」

「…っ、ぅ、ぁ、あ゛、」


知らない人のはずなのに、身体が反応する。
何故か命令以上に強制力を感じる言葉に、その手を取ってしまいそうになる。

それ以上、聞きたくない。
この人と、もう何も話したくない。

見たくない。
知りたくない。
分かりたくない。

……思い出したく、ない。


「もう、お前が戻れる場所なんて俺以外にねえんだよ」

「…っ、おれは、くーくんに、くーくんの傍に、」


ぼろぼろとわけもわからず涙が零れる。

戻れる。
まだ、彼の隣にいられるはずだ。
まだ、何も知らないから、大好きなくーくんと一緒に


「アイツは、もうすぐ死ぬ」

「……ぇ、?」


死ぬ?

ありえない言葉に、脳がシェイクされたように揺れる。
でも、いや、まさか聞き間違えだろうと思いなおし、「アイツ、って」と呟けば、答えはすぐに返された。


「お前の言う”くーくん”に決まってんだろ」


「……………っ、………………………………は、」



飲みこむのに時間がかかって、はは、と思わず笑ってしまった。


「くーくんが、死ぬ…?そんなはずない…っ!だって、ついさっきも、普通に話して、」

「そう見えてるだけだ。アイツがそういう育ちだってことは知ってんだろうが」

「……っ、」

「アイツは、ずっとそう父親に教育されてきた。痛い、悲しい、苦しい、辛い、寂しい、って負の感情だけじゃない。幸せだ、嬉しい、それらも含めた喜怒哀楽全てのどの感情を出すことのない『人形』になるために」


「どれだけ痛くても、辛くてもそれを感じないように、表に出ないようにさせられて、ずっと、そうして生きてきたんだ。だから、もしかしたら今我慢してる自覚もないかもな」と嘲笑って吐き捨てる声。


確かに酷い発熱をしていた。それでも、何もないって、彼は否定して――――、

でも、だけど


「うそだ、そんなはずない…っ!くーくんはこれからも生きてる…っ!!死ぬわけない…っ!!」


首を振る。
全力で否定する。

これを肯定してしまったら、どうなる、
ありえない、ありえない、
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