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この数日間ナイフを何度も自分に刺そうとして、刺して、止められて、治療されて、くーくんを遠ざけて、部屋に籠って、何もかもがわからなくなって、泣いて、全てが零れて吐き出しすぎて麻痺した。

だって、受け止められるはずない。
動揺しないでいることなんかできるわけない、あんなの、あんなのは、嘘だ。悪い夢だったんだと思いたい。

何もかもがぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか、こんな奴が生きていていいのか、死んだ方がいいんじゃないか、死ななければならないと、色んな数えきれない程の文字の羅列で思考が埋め尽くされた。

……疲れたせいか、考える思考を使い切って故障したせいか、…それとも、どちらでもないのかもしれない。
少し前まであれほど狂いそうなほどに感情が揺さぶられていたのに、今は落ち着いている。

全てを思い出す前と何が変わったのかと思うけど、

……それでも、深い部分は変わっていないのだから、同じ人間ではあるんだろう。


「目の縁真っ赤になってる」

「…ぁ、」


体内の水分がなくなるほど、泣いたせいだろう。

俺の顔を見て、困ったように目を細める整った顔。
心配そうな表情でその部分を指先で軽く撫でられ、視線を逸らす。


「まーくんは、どれだけ包帯に巻かれたら気が済むの」

「……ごめん、なさい」


謝ることしかできない。
結局全部手当させてしまった。

(……ほんとに、弱いな俺って、)

するって決めたのは自分なのに今更震えが止まらない身体を情けないなぁと思う。

たわいのない話を交わし、少し、改まって息をした。
振戦する手を膝の上でぎゅっと握る。


「く、ーくんは、…前、熱出てたけど、…身体は、」

「うん。今はもう何ともないよ」


彼の整った横顔を見つめても、微かな動揺さえ見られない。
そこから読み取れる情報は何もない。

……でも、……覚えている。

確実に刃が肉体に刺さった時にそれを握っていた手の平越しに伝わってきた振動が、感触が、鮮明に残っている。

くーくんが、…蒼が、死ぬかもしれない……?

俺のせいで、俺のせいで、おれの、せいで?

その事実は永遠に自身を責め、嬲り続け、普通に息をすることさえ怪しくさせる。

考えることが多すぎて、考えなければいけないことがありすぎて、どうにかなってしまいそうだった。


「……ぁ、」


ピアノ線が張ったような声が漏れ、目を伏せた。

……触れてさえいなければ、あの言葉は嘘なのだと思える。
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