3

その無駄な希望に、縋ってしまいたくなる。
続けて、聞こうとした言葉を飲みこんだ。


「…っ…嘘、ついてない、…?」

「……まーくんってそんなに心配性だった?」


服にしがみつくようにして聞く俺に、彼は一瞬不思議そうな表情をして、クス、と可笑しそうに笑みを零した。

「どうして俺が嘘をついてると思うの?」ってまるで俺がタチの悪い冗談を言ってるみたいに躱す。

……本人には何度聞いてもこうして、いつもと変わらない返事が返ってくる。


「だって、……もしかして、いなくなっちゃうんじゃないかって、……俺、おれの…っ、せいで、また、あの人も、俺が、皆、俺のせいで、」


誰の不幸の原因にもなりたくなくて。
……傍にいる人全員に、幸せになってほしくて。

嬉しそうに笑っている顔が見たかった。
ただ、それだけを最初に望んでいたはずだったのに。

……なんで、俺はこんなに出来損ないで、最低な人間になってしまったんだろう。

責めてくれればいいのに。
殴って、詰って、罵ってくれればいいのに。

そうしてくれていないと、自分を保っていられない。

思い出し、ごめん、ごめんなさい、と謝罪の言葉しか吐き出せず、震えがとまらなくなる俺の身体に回された腕に、抱き締められる。


「大丈夫。怖くないよ」

「……ぇ、…?」

「俺がずっと傍にいる。……いなくなったり、しないから」

「………っ、」


昔と変わらない。
甘くて真剣な、泣きたくなるような言葉に涙ぐみ、胸が締め付けられた。

どうして、蒼に……あんなに酷いことをしてしまった俺に優しくしてくれるんだろう。
傍にいようとしてくれるんだろう。

記憶を失っていたとしても、そんなこと関係なく突き放されても、捨てられても……殺されたとしても文句は言えないのに。

(……それに、)

やっぱり、あの人は嘘をついてたんだ。

ご主人様は俺のことが嫌いだから、脅かしただけだったんだ。


「………っ、」


だって、蒼が死ぬわけがない。
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