2



名前を呼ばれた気がした。

焦りと心配の色を含んだ声に怠く重い瞼を持ち上げると、蒼が不安そうな表情でこっちを覗きこむようにしていた。


「…あお、い…?」


口から出る声が震えていることに気づいた。
喉の奥が、熱い。

気づけば…何かあったかいものがたくさん目から溢れてシーツを濡らしていた。
呆然とする。


「…え?」


(なんで、涙が…)


「悪い夢でも見た?」


安心させようとしてくれているのか、頭を撫でてくれる蒼に「だ、い、じょうぶ」と涙を拭いながら上半身を起こす。

身体の節々が痛い。

頭がぼーっとする。
彼の心配そうな表情に夢の内容を話そうとして…でも、「…なんの夢だっけ…」と呟く。

……どれだけ考えても、全く思い出せない。


そんなことよりも、


「…いてくれたんだ」


ずっと握ってくれていたらしい。
手が、あたたかい。

申し訳なさと、ありがたさで、返す言葉が変な感じになってしまう。
今日は蒼にお礼を言ってばかりだなと思って笑うと、彼も優しく安心したような笑みを零して「体調はどう?」と聞いた。


「…うん。さっきよりは大分マシになった」


まだちょっと怠いけど。
ふと辺りを見回して、時計を探す。
部屋が暗い。

ふいにその時計に示された数字が目に入って、思わず驚きに声を上げた。


(…午前、5時)


昨日家に送ってもらったのが、夕方頃だったから、半日はたったことになる。


「あ、蒼…っ、ごめん…っ」


そばにいてくれたから、結果的に家に縛り付けることになってしまった。

心配させた挙句に、迷惑をかけてしまった。

どうしよう。どうしよう。
バクバクと心臓が動いて、その申し訳なさに下げた頭を上げることができない。


「あの、家の人には…っ」

「大丈夫。なんとかしたから」


微笑んでそう言った蒼に「ほら、ベッドに戻って」と肩を優しく押されて、ふわふわの布団の上に横にされる。


「ご、ごめん…っ、本当に」

「いいよ。まーくんの方が大事だから」


前にも似たようなセリフを聞いたなと少し既視感を覚えつつ、もう一度謝る。
prev next


[back][TOP]栞を挟む