過去の夢1

***


夢を見た。

とても、懐かしい夢を。


「…っ、」


声が聞こえる。

何かを言い合う。

怒鳴り合う声が。


(ああ、でも会話してる方だから、二人とも仲いいんだなぁ)


友達が言うには、「会話をしないのがいちばんこわい」らしい。

小学3年のおれは、リビングの机の上で干からびたパンを食べていて。
隣の部屋からその声は聞こえてきていた。
今日は二人ともいるんだってことに嬉しくなって、食が進む。

おいしい。
もぐもぐと食べていると

ドン!!


「わっ」


その大きな物音に驚いて、ぺしゃりと手にもっていたそれが床に落ちる。
「あー」と床に落ちたそれをちょっとだけ泣きそうになりながら見て、埃を払いながら食べた。

汚いけど、それでも誰かがいるからちゃんとパンの味がして美味しかった。

すると怒ったような声が扉の方に近づいてきて、バンと扉が開いて男の人が出てくる。

おれを見つけたその男の人に、「真冬、お前ちゃんと学校でやってるのか」と聞かれて「今日は、平均点が50点のテストで80点取った」と答えた。

そしたら、「…普通より下にはなるなよ」と言われて「うん」と答えれば、「普通以上取れてるから、これを食べてもいいぞ」と冷蔵庫から市販のから揚げ弁当がでてくる。

わーいと喜んでそれを受け取れば、「レンジで温めて食べろよ」と言った男の人は、そのままどこかに出かけて行った。

普通以上ならだれにも非難されない。
普通以上でいれば、普通のご飯を食べることができる。

レンジでチンしたほかほかの弁当を食べながら、嬉々と頬を緩めていると、女の人が出てきておれを抱きしめた。


「―――に褒められてよかったわね。かわいい真冬、一緒にご飯でも食べましょうか」

「うん。食べる」


おれはその時、すごく幸せで、すごく満たされていた。
女の人と一緒に笑いながらご飯を食べる。
他の人の生活がどんなのかなんて知らない。

それでも、おれにはこの生活が”普通”だった。

おれが頑張れば、一緒に住んでるこの女の人も男の人も優しくしてくれる。

それだけで充分幸せだったから。

おれは誰かに愛されてるんだって思えたから。

そこまで考えて
ふと、何かがおかしいことに気づく。


「……(あれ…?)」



じゃあ


「―――――お前なんか―――」


そう吐き捨てるようにおれに言ったのは、誰だったっけ。

――――

そんな人、おれはしらない。
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