何も見なかったふりをする。 1

***


……気づけば知らない場所にいた。

周りには誰もいなくて。

ココにいるのは、自分ひとりだけ。
叫んで、走ってもその場所には誰もいなくて、誰も助けてくれない。

頭が痛い。
苦しい。
誰か、助けて。

誰か――ッ。


「…っ、」


ハッとして目が覚める。


「…――っ、はぁーっ、」


夢…か…。

汗が体中から湧き出て、呼吸を整える。
どくどくと脈うつ身体に、すーっと息を吸った。

嫌な夢だった。
もう、思い出したくない程に嫌な夢だった。


「……ここ、は、」


どこだっけ。
ぼうっとする思考を働かせようとして、ふと、視界が見えることに気づいた。

……目隠しがない。

長い間つけていた絆創膏を外した時のように、目がすうっと冷えて痛い。
ぺたぺたと掌をほっぺに当てたり、布団に手を触れたことで、実感する。
ちゃんと触れてる。見えてる。

そこで、気づいた。


「あおいは…?」


いつも近くにいるはずなのに、いない。
蒼が、いない。
若干まだ夢心地のまま、起き上がって。
足を地面につけた瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。
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