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……
……………


あのまま、見てみないふりをしようと思った。
ただの見知らぬ少年だ。

挨拶を交わしたこともなければ、紹介されたわけでもない。
最早風呂の場所なんてどうでもよくなっていた。

だからこそ、別に風呂場の位置を教えてほしいとか、そんな考えは一切なかった。

あんな場面に遭遇してしまったからこそ、そっとしておく方が本人にとってもいいはずだ。

僕が関わるべきではない。

気にすることではない。

そう、思っているのに、



「……………」

「…っ゛、ぅ、……ぐ………ぇ……?」



部屋の、前にいる。

情事が行われていた部屋とは違う。


……僕を見上げ、涙を零す不安そうな目。


喉の奥で、粘ついた唾を飲みこんだ。
部屋の中にもかかわらず、ついていない電気はこの場の異様さを増幅させる。


外からの灯りで、……見える。



「…………、」


涙と汗に濡れた色素の薄い肌。
染めているわけではないとすぐにわかる綺麗な薄茶色の髪。
着物がめちゃくちゃになっているせいでほとんど露出し、苦しげに息をしているせいで呼吸を荒くしながら上気する身体。

雪のような頬が赤みを帯びている。

心許なく頼りなげな表情で見つめられ、より劣情を増す。
どことなく危なっかしい線の細い雰囲気を漂わせながら、髪色と同じように少し茶っぽい目が更に潤み、涙が溢れて零れた。

女にも騒がれそうな顔なのに、そこに頓着しないように思うのは少年から感じるこの空気感のせいだろう。


「……ぃ、……」


何も言葉を発しない僕に、戸惑い、見た目よりも少し幼げな雰囲気で口を動かした。
言いかけた声を飲み込むように視線を逸らし、またその些細な動作によっても涙は止まることを知らないようにぼろぼろと落ちる。



「……ごめ、ん、なさい…っ、」

「ッ、…!」


さっきからしゃくりあげながら何度も何を言いかけているのかと思ったが、ずっと謝っていたらしい。

別の誰かに言っているのかと振り返ってみるも、ここには僕しかいない。
それに、確実にその目は僕を見ていた。

何を、謝っているのか。

興味本位でここにきた僕が悪いというのに。

何故か、ただ好奇心でここに来ただけの得体のしれない男に涙を流しながら何度も謝る様は、
……その泣き顔で、見上げるような体勢で謝る様子は、非常に……僕のよろしくないところにクるものがあった。
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