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恋だとか、そういうありふれた言葉では片づけられない。

愛、執着、依存といった、そんな簡単な表現で形づけることはできない。

それ以上に、より強く、より複雑に混じり合った何か。

(……僕が誰かにその気持ちを抱けることも、到底向けられることもない……)

蒼様になら身を捧げてでも喜んで向けられたいと思う女は山ほどいるだろうが、……きっと一度その対象になってしまえば永遠に逃げることはできなくなる。

彼のその表情に含まれている感情は、明らかに『普通』とは程遠い。



……確かに思い返せば幾つものヒントはあった。

少年の肩に薄く残っていた歯型とかなりの数のキスマーク。
奥様にもキスマークはあるにはあったが、噛まれた跡はなかったし、数は比較するとだいぶ少ない。

加えて奥様は桃色の着物が多く、蒼様とは多少色がかぶっても柄は違った。

対して、蒼様と少年が今まで着ていた着物の色、柄、素材、仕立て方等は全て同じに見えたし、お互いが意図しないと揃えられないような高級品のものしかなかった。

おそらく少年が自分で作れるはずもないから、蒼様が特別に用意させたんだろう。

これだけでも充分に憶測はできた。

さすがにここまでくると、蒼様と執事長に特別扱いを受けていたDが少年であることは少し前からわかっていた。

……そこにはもれなくCも関わってくるわけで、じゃあ何故命令違反をしてまでここにきているのかと問われると言い訳も浮かばず頭が上がらない。

前から薄々とはわかっていたが、知らないふりをしていただけだ。
蒼様の特別が少年じゃなければいいと、心のどこかで思っていたからかもしれない。

だが、ばれているなら何かしらの注意は受けるはずだし、現在お咎めがないことからも、そこまでのことではなかったんだろうと僕は軽く考えていた。
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