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部屋に入って、荒い呼吸と怒りを必死に抑える。
ドアに背をつけて、ぐっと拳を握った。
「(あーー、もう、)」
男とキスとか最悪だ。
唇を手の甲で、皮膚がもげるほどに強く拭う。
今後一切何があっても、話しかけられても無視しよう。
(…いっそのこと舌を噛みちぎってやればよかった。)
くそ。変態に関わるとロクなことがない。
「……」
ふと、地面に倒れていた小鳥遊さんの姿を思い出す。
なんで倒れてたんだろうとか、余計なことを考え始めた思考に舌打ちする。
どうでもいいだろ。あんな変態がどこで死に倒れてたって。
「……俺には、関係ない。」
放っておけ。
あんな変態放っておけ。
そう二回ほど心の中で呟いて、やりきれない思考に息を吐く。
「……あ゛ー、くそ…っ」
冷蔵庫に入っていた『それ』を取り出す。
バンとドアを開けて、まだ痛いのかうずくまっているその人物に放り投げた。
ぽすん
「……え?」
クリーンヒット。
「…これ、」
「それでも食べて、元気出たら自分で買い物にでも行って下さい」
ここに倒れてたってことは、動けないほど空腹だったんだろう。
別に小鳥遊さんを助けたいわけじゃないけど、人間として流石に見て見ぬふりをするのも気が引けた。
「賞味期限一日切れてる…」
「アンタにはそんぐらいで充分だろ」
そう悲しそうに、でもなぜか嬉しそうに頬を緩めるその姿にため息をつく。
ああ、もう。
小鳥遊さんといるとため息ばっかりだ。
「……食べないなら勝手に捨ててください」
プイと顔を背け、思い切り音を鳴らしてドアを閉めた。
「…さんきゅー…」
扉を閉める瞬間、小さくそう呟く声が聞こえた。
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その夜にひとりで食べたおでんは、やっぱりあたたかくてうまかった。
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