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でも、

小鳥遊さんは、何故か全然残念そうじゃなく、むしろ嫌がる俺の反応さえ楽しんでいるように「そっか」と笑っていた。
違和感に眉を顰めると、掴まれた腕をぐっと引かれる。


「何…っ、」

「…怯えてる顔も、やっぱり情欲的で美しいな」

「は?…、ッ゛」


抵抗する間もなく、顔が近づいてくるのが分かる。
瞬時に間を詰められ、


「―――ッ、」


その唇が俺のそれに触れそうになった瞬間、反射的に拳が出ていた。


「……っ゛、!あっぶな」

「…今、俺に何しようとした」


手が相手の顔に到達する前に、パシッと容易に振り上げた手首を掴まれた。
それがもっとムカつく。くそ。当たれ。


「…?何って、キスだけど」

「…っ、ふざ、けんなよ」

「だって橘くんってかなり顔綺麗なのに経験はそんなになさそうだし、キスしたらどんな顔するかなーって気になってたから」

「……っ、!!マジでふざけんな」


俺は男なんだぞ。

しかも相手は20代の男で、社会人で、こっちは高校生だ。

(キスしたら犯罪だろ)

力を込めて、ぶるぶると震える握りこぶし。

びくともしない。


「…っ、この、変態…!!」

「変態じゃないんだけどな」


いや、変態だろ。
心底ムッとして、その顔を睨みあげる。


「それに殴ろうとするなんて酷くない?」

「自業自得です」

「はは、不機嫌な顔も良いね」


変わらず飄々と楽しそうに口を歪める小鳥遊さんを睨み付けて、「はげろばかくそ変態」なんて自分でも呆れるほど子供みたいな捨て台詞を吐いて、逃げるように自分の部屋に戻った。

―――――


(ああ、もう嫌だ。)

(なんで、あんな人が隣人なんだろう。)


……しかしその後、

小鳥遊さんを無視し続ける俺がご飯につられてキス未遂を忘れたことにされた日から、なんだかんだ話せる関係になってしまうということを誰が予想できただろう。
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