3
…何故、その理由は今朝。
右隣の家の悪魔の方の幼なじみ、真宮 麗央(まみや れお)に「今日からこれ俺のモンだから」とか訳の分からない理由で強奪された教科書を取り戻す為に、隣の部屋のチャイムを押した時のことだった。
「おーい、貸した教科書…」
「あ、麗央、おっかえりー。」
(……へ、)
香水のような強い匂いとともに、何かがすごい勢いで走ってきて抱き付いてきた。
むしろタックルしてきたといっても過言じゃなかった。
「わっ」
「う゛…っ」
もろ顔面に頭部をクリティカルヒットさせてきたその物体のせいで、顔面の半端ない激痛にぐぐもった声が漏れ、身体のバランスが崩れる。
(危ない…っ)
咄嗟にそれを受け止めようとしたせいで受け身が取れなくなり、後頭部をすごい勢いでコンクリートにぶつける。
視界が真っ白になって、一瞬息が出来なくなった。
「う、」
「ぅおおおお…!!痛いよううおおおん」なんて涙を流しながら頭をおさえて悶絶しつつ、ぼやける視界でぶつかってきた奴の正体を確かめる。
さらさらの髪に綺麗な顔の美人がきょとんと首を傾げてこっちを見下ろしていた。
「麗央、じゃない…?」
いや、見たらわかるだろ。
…て、いうか。
(す、すげぇ美人)
胸もでかいし、くそう。
麗央のやつ、またこんな美人連れ込んでるし。
羨ましい許さないゆずってほしいなんて最後にはプライドもへったくれもない欲望を胸中で呟きながら、へらりと笑う。
「えーっと、お姉さん、麗央の彼女ですか…?」
「あら?あなた結構綺麗な顔してるのね」
無視か。無視なのか。
さりげなく俺の言葉をスル―されて悲しい。
頬をすす、と撫でるように触られて、ひいいいなんて声にならない悲鳴が上がる。なんと情けない。チキン。
「あ、あの退いてくれませんか」
女の人にあんまり免疫のない分、近づかれるとどうしていいかわからない。
正直に言うと、緊張しすぎてどうにかなりそうだった。
「そうねぇ」
腰を浮かしたお姉さんを見て、退いてくれるのか、とほっと身体を起こしかけたとき。
…なんということか。
にこりと笑ったお姉さんが、俺の上にまたがりなおしてきた。
「なんちゃってー」
「え…っ、ちょ、」
まずいまずいまずい怖い。
いやいやいやいや、「なんちゃってー」とか冗談かましてる場合じゃなくてですねお姉さん。
もしこれがばれたら殺されるの俺なんですよ。
命の危機が迫ってるんですよ…!!
しかも、麗央の彼女なのに、何してるんですか。ほかの男にこんなことして襲われたらどうするんですか。なんて考えて泣きそうになる。
それに麗央がいつ帰ってくるかわからない怖さで、目の前の美しさに目がくらむ余裕なんてなかった。
そんな俺の思考に本当に気づいていないのか、気づいていてわざと無視しているのか、お姉さんがふふ、と妖艶に微笑む。
[
back]
栞を挟む