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不機嫌な顔のまま、片手でこめかみを掴まれる。
全然ツボマッサージじゃない。むしろ破裂する…!!
「ですよね!そうですよね!!思いません!!思ってませんでした!!いだだだだだいすみません許して!!」
「ほんと、ムカつく」
「う゛ええ…!いだいいだい…!!」
「………」
思い切り握りつぶされそうなほど痛い。
本当に痛い。
めっちゃ頭蓋骨、ミシミシ鳴ってるんですけど!!
「…まぁ、いいや」
まだ不満げな表情をしている麗央がぷいと横を向いて、ぽいと俺を床に放る。
(い、意外に許してくれた…のか?)
「わああいよかったー」と心の中でバンザイしようとして、ガシッと掴まれた手首に「へ?!」なんて素っ頓狂な声が上がった。
「れ、麗央…?」
なんかすごいイイ笑顔をしている。
これ以上ないほど、爽やかな笑顔だった。
「ほら、――今からお仕置きの時間だ。下僕」
「え?!ええ?うおおおおおお…!!尻が地面を擦ってる痛い摩擦がああ!!」
今まで見たことないくらい爽やかな笑顔を浮かべた麗央様に首根っこを掴まれ、悪戯をした野良ネコのような扱いでずるずると引きずられていく。
あわあわと手を振りまわしても、それを意に介さない彼は俺を乱雑にベッドの上に放り投げた。
「ぶほっ」
顔面からベッドにダイブ。
物か。俺は物扱いか…!!扱いが酷い!!
上を見上げれば、蛍光灯の光。
視界の端に広がる長い髪。
「な、何…っ」
そして、戸惑う俺の上に覆いかぶさった麗央は、こう言い放ったのだ。
「今からヤるから。拒否権なし」
「え゛」
そして冒頭に戻る、というわけだ。
「はい、ヤります!!わーい」なんて言えるはずもなく、その冗談を言ってるようには見えない顔を見て、青ざめる。
むしろまだ女の子ともヤったことないのに男となんてヤれるか…!!
流石に初めてが男なんて、そんなの悲しすぎる。
…ていうか。
「なんでだよ…!!”まぁ、いいや”ってさっき、」
言ってたじゃん、と訴えるように麗央を見上げると、眉を寄せてすごい苛立った視線を向けられた。
「は?なんかキモい格好してるのを許してやったんだよ」
「ひ、酷い…」
キモいって、キモいって言われた…。
そ、そりゃあ確かにキモイだろうけど…。
男のくせに、こんないかにも女子が着そうな服を着てるなんて気持ち悪いと思われても仕方ないんだろうけど…。
じわじわと涙が瞳に浮かんでくる。
「お、…俺、彼方が麗央はこういう格好が好きだっていうから、必死に頑張ったのに…」
今にも泣きだしそうな程のショックを受けてしゅんと頭を垂れると、「あ゛ー」となんか口ごもるような、困ったという様なそんな声が聞こえる。
「…下僕にしては、よくやった。褒めてやってもいい」
相変わらず素直じゃないそのぶっきらぼうな声音に、にへらと笑うと「笑うなばか」と殴られた。酷い理不尽。
「じゃあ、ご褒美だ。受け取れ」
なんて笑顔でネクタイを緩めた麗央に血の気が引く。
ほどいたネクタイで、さっと俺の両手首を一つにまとめて縛った。
痛い痛い。血管が締まる…!!
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