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「て、ちょっと?!なにやってんの?!」
「ん?準備だろ。逃げないようにって」
何言ってんだコイツ、みたいな目で見られる。
準備?!準備って本気かよ…!!
いや、疑ってたわけじゃないけど、なんやかんや「冗談に決まってるだろ。ばーか」みたいな言葉を期待していた。
「穴があるなら使ってやるよ」的なとんでもない状況になってきて、流石に慌てる。
いやいやいやいや…!!
「ちょ、待て!!待ってください麗央様!!」
「…何」
「面倒くせえ男だな」みたいな視線を向けてくる麗央に、全身全霊で拒否を示した。
ダンゴムシみたいにベッドの上を転げまわる。ぬおお。
これを逃れられるならもう面倒くさい男でもいい。
土下座だってする。
「無理だって!!男同士は無理だってやめてえええ!!」
「俺も無理」
「だったらやめろよ!!」
ズバッと言い切る麗央に、そうツッコんだ。
男が無理ならやめろよ!!やめてください勘弁してくださいううううう泣くぞ本気で…!!
どうにか、逃亡しようと一つにまとめられた手首を動かす。
解けない…!!くそう!!
「暴れんな、変態」
「だって、ぬが…っ!?」
「…っ、痛い」
「痛いのはこっちのほうだ…!!ううう…いてええ…!!」
でかい衝撃と同時に、額に激痛が走る。
…ガツンと音がして思いきり頭突きされた。
目の前で火花が散ったような気がする。
額がずきずき鈍く痛んで、ううと嘆いて眼球が熱くなる。
(…変態と罵られ、頭突きされ…)
なんで俺がこんな目に…と自分の現状を考えて若干涙を流していると、麗央がその綺麗な顔を緩ませて俺の頬に触れる。
それはまるで、よく漫画に出てくる王子様のようで…。
「大丈夫。俺に任せておけば何の問題もないから」
「…麗央…」
甘く囁かれ、そんな麗央にぽっと頬を染めて見惚れる俺。
その形の良い唇が俺の髪にそっとキスを落とす。
ドキン。
(このまま、麗央に任せておけば、いいのかもしれない…)
そして俺は、期待するように高鳴る鼓動を感じながら…
「だから尻貸せよ」
と雰囲気ぶち壊しでぶっきらぼうに吐き捨てる麗央に、身を預けるように尻を差し出…、
…すわけがなかった。
「…っなんて展開になるかぁあああああ…!!」
これ、前半は麗央がいつも女にやってる常套手段じゃねぇか!!
最後の酷いし…!
「尻貸せよ」ってなんつー…なんていうか言葉に出来ないけど、直接的すぎるだろ。気遣いってものを知らないのか。
それに男の俺が麗央のそんなやり方に騙されるわけないだろ!!ばか、ばか、ばーか。
「うええええん嫌だよう!!初めては女の子としたいよおおお!!」
なんて、欲望駄々漏れなことを駄々っ子の様に叫ぶ俺に、チッと麗央が心底鬱陶しそうな表情で小さく舌打ちをした。
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