9
「て、ちょっと?!なにやってんの?!」

「ん?準備だろ。逃げないようにって」


何言ってんだコイツ、みたいな目で見られる。
準備?!準備って本気かよ…!!

いや、疑ってたわけじゃないけど、なんやかんや「冗談に決まってるだろ。ばーか」みたいな言葉を期待していた。

「穴があるなら使ってやるよ」的なとんでもない状況になってきて、流石に慌てる。

いやいやいやいや…!!


「ちょ、待て!!待ってください麗央様!!」

「…何」


「面倒くせえ男だな」みたいな視線を向けてくる麗央に、全身全霊で拒否を示した。
ダンゴムシみたいにベッドの上を転げまわる。ぬおお。

これを逃れられるならもう面倒くさい男でもいい。
土下座だってする。


「無理だって!!男同士は無理だってやめてえええ!!」

「俺も無理」

「だったらやめろよ!!」


ズバッと言い切る麗央に、そうツッコんだ。
男が無理ならやめろよ!!やめてください勘弁してくださいううううう泣くぞ本気で…!!
どうにか、逃亡しようと一つにまとめられた手首を動かす。
解けない…!!くそう!!


「暴れんな、変態」

「だって、ぬが…っ!?」

「…っ、痛い」

「痛いのはこっちのほうだ…!!ううう…いてええ…!!」


でかい衝撃と同時に、額に激痛が走る。
…ガツンと音がして思いきり頭突きされた。
目の前で火花が散ったような気がする。
額がずきずき鈍く痛んで、ううと嘆いて眼球が熱くなる。

(…変態と罵られ、頭突きされ…)

なんで俺がこんな目に…と自分の現状を考えて若干涙を流していると、麗央がその綺麗な顔を緩ませて俺の頬に触れる。

それはまるで、よく漫画に出てくる王子様のようで…。


「大丈夫。俺に任せておけば何の問題もないから」

「…麗央…」


甘く囁かれ、そんな麗央にぽっと頬を染めて見惚れる俺。
その形の良い唇が俺の髪にそっとキスを落とす。

ドキン。

(このまま、麗央に任せておけば、いいのかもしれない…)

そして俺は、期待するように高鳴る鼓動を感じながら…


「だから尻貸せよ」

と雰囲気ぶち壊しでぶっきらぼうに吐き捨てる麗央に、身を預けるように尻を差し出…、

…すわけがなかった。


「…っなんて展開になるかぁあああああ…!!」


これ、前半は麗央がいつも女にやってる常套手段じゃねぇか!!

最後の酷いし…!

「尻貸せよ」ってなんつー…なんていうか言葉に出来ないけど、直接的すぎるだろ。気遣いってものを知らないのか。

それに男の俺が麗央のそんなやり方に騙されるわけないだろ!!ばか、ばか、ばーか。


「うええええん嫌だよう!!初めては女の子としたいよおおお!!」


なんて、欲望駄々漏れなことを駄々っ子の様に叫ぶ俺に、チッと麗央が心底鬱陶しそうな表情で小さく舌打ちをした。
prev next


[back]栞を挟む