愛されたがりのエゴイスト1



「……と」


誰かの声が聞こえる。
微睡の中から呼び寄せられるような感覚。


…目を開けた瞬間、初めに見えたのは白い天井だった。


「……ぁ…、っ゛、」


何度目かわからない病院独特の匂い。
少しの間呆然と白色の板を見上げて、…すぐに自分が今どこにいるのかわかった。
ズキズキと頭が痛くて触ってみれば少し硬い包帯の感触がある。

持ち上げた腕にも同じものが巻かれていた。


(…生きてる)


…あーあ、また失敗…したんだ。

動かすたびに身体中に激痛が走る。

うおお痛ってぇ…ぐすん。



「…しぶといなー俺…」


ハハ、と掠れた声で笑いながらぼそりと、小さく呟いてみる。
しぶとい。…ほんと、しぶとい。


「…あー…」

「そうやってすぐ死のうとする癖やめろ」



吐き捨てるような口調。

…いつからいたんだろう。聞きなれた声に、条件反射で笑顔を作ってしまう。そんな自分をぐちゃぐちゃにしてしまいたい。一番気持ち悪い。


(それにしても、まさかいるとは思わなかった)


俺のこの”癖”にももう慣れっこらしい彼は、近くの椅子に座って読書をしていたらしい。

本を片手に長い足を組んで普段と至って変わらない無表情でこっちを見る。


(…真似じゃないんだけど)


本当に死ねたらどれだけ良かったか。

そんなこと言えるわけないからへらっと笑っていつも通り彼にぎゅーっと抱き付こうと手を伸ばす。


「おー、やっぱり愛也来てくれたんだー。やっさしーあいらぶゆー!」

「マジでふざけんな」

「…っ、へへ」


鬱陶しそうに強く振り払われた。 結構傷つく。

でも、やっぱりそんな風に言いながらも彼はこうして病院にまで来てくれて俺を決して見捨てたりしないんだけど、

だからそんな彼が可愛くて愛しくて…許せない。

こんなおかしな人間放っておけばいいのに。


「…いっつもへらへらしてるよなお前」

「まーそれが俺の取り柄ですから」

「やめろ。本気で気持ち悪い」

「…なんだよ。そこまで言うことないだろ」


流石に真剣な顔でそこまで言われると傷つくどころじゃない。

今のは本当にグサッと来た。
結構この笑顔評判いいんだぞ。


女子にはかなりウケ良いしそれに他にも誰かに「お前っていつも笑ってて悩みとかなさそうで羨ましい」とか言われたし。


…あれ、これ今思うと悪口的な感じで言われたのかもしれない。

まぁ取り敢えずぶすっと眉を寄せた顔を緩ませていつものへらへらに戻す。

相変わらず見惚れるぐらい格好いい顔で俺を見つめ返す愛也(まなや)に笑いかけた。


「あ、もしかして俺の笑顔を独占したくて他のヤツに見せたくないからそういうこと」

「…もういい。帰る」

「え」


普段感情を顔に出さない彼が呆れた様にため息を吐いて、珍しく不機嫌をあからさまに出して吐き捨てた。


それに呆気に取られているうちに、本当に病室を出ていってしまった。


「ちぇ」


ベッドに寝転がって、ふあと欠伸をした。


「…せっかちさんだねぇ」


さっさと帰ってしまった恋人にぼそりと呟く。

愛也がいないと途端に暇になる。
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