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流石にこんな格好で学校に行くことなんかできない。

…そういうわけで休むことを決めた蒼と俺。

中学生の蒼と、小学生の俺。
もしもこんな姿を同級生の人たちが見たら腰を抜かすだろう。

…もしかしたら皆こんな風にちっちゃくなってるのかもしれないと思って、テレビでニュースを見ることにした。

でも、皆にそのような異常現象が皆に起きているわけではないらしく、いつも通り皆ちゃんと大人でこの出来事に関したニュースは取り上げられていなかった。


今いるのは、俺の家の中のダイニングルーム。



「そしてお姫様と王子さまは…」

「……」


酷くご機嫌な、今にも鼻歌でも歌いそうな表情で絵本を朗読する蒼。
その膝の上にちょこんと乗せられて、少々、いや結構不満げな顔をしているだろう俺。
むーっとご機嫌斜めに頬を膨らませる。



椅子に座る蒼がその手に持っているものは、何故か鞄のなかに入れて持ってきていたらしい絵本。
まるでこうなるかを予測していたような偶然に、何か違和感を感じずにはいられなかった。
それに蒼は、俺を見た時も全然驚いてなかったし、小さくなった自分自身にもあまり衝撃を感じているようには見えない。

(…むしろ…若干喜んでいるような感じがするのは気のせいかな…)


「12時の鐘が鳴りました…」

「……(…ううう…よみきかせとか…何歳だよ…おれ…)」


彼は今一人で絵本を朗読しているわけではない。

…絵本の朗読には、必ずそれを読みきかせる相手というものがいるものだ。

(…誰相手にって…勿論…”俺”相手にだけど…)

何故俺がこんな子ども扱いを受けなければならない。
絵本の読み聞かせなんか、この歳になって冗談じゃない。
もう高校生だぞ。立派な高校生。

なんだか懐かしくて嬉しいような感情と、ちょっとふてくされ気味の感情がごっちゃになる。

同級生(今は中学生)の膝の上に乗って、朗読される小学生(中身高校1年生)の図。
いや、身体は子どもなんだけど…中身は一緒の高校1年生のはずだ。

だから、こんなのおかしいわけで、
結局今もぶかぶかな服のままだ。
着替えるからちょっと部屋で待っててと言っても、そのままがいいと縋るような瞳で何度も蒼に言われてしぶしぶそのままの格好でいる。

でも正直、油断するとすぐに服が落ちてきて肩が丸見えになるから、何度も服を掴んであげるのが面倒くさい。

どうしても着替えたいと悩みつつ、小学生の時の服なんて取っておいてないからどうしようと困っていれば、蒼の家に俺の身体と同じくらいのサイズのものがあるらしく、家の人に持ってきてもらえるらしい。

でも

この状況はとんでもなく、


「…(…不満だ)」


本来同級生のはずなのに蒼の膝の上に、こうして収まってしまう自分も。
本来同級生のはずなのに甘ったるく優し気に朗読する蒼にも、むぅと眉を顰める。
ぶっすーと仏頂面をする俺に気づいた上機嫌な彼は、俺の髪を撫でて目を細める。


「まーくん、どうかした?眠い?一緒に寝る?」


どうしてそうなる、という言葉をぐっと飲みこんで、顔を上げる。
嬉しそうに微笑んでいる蒼の綺麗な顔を見た瞬間、なんだか不満を言う気も失せて首を横に振った。
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