A
…あの日以来、まーくんの家で引き取ってもらえることになって、本当に良かったと思う。言葉でなんて言い表せないぐらい…心底感謝している。
それに、両親と話しているときのまーくんは、こっちまで幸せになってしまうような笑顔を浮かべていて、俺はその顔をみると幸せな気持ちになれた。
そして高校のとき、悠長に構えていていいのだろうか、こんなことをしている間にもしまーくんが他の女子と付き合ったらどうしようとか色々考えて、悩んで、
気持ちを黙っておくことができなくて、…好きだ、と伝えた。
男同士だし、断られるだろうと思ったのに、驚いたことに受け入れてくれて、
……こうして今
晴れて恋人同士となった俺達は同じアパートの一室で暮らしている。
嗚呼、幸せなんだなぁと改めて思い出を振り返りながらそんなことを思い、意識を目の前に向けた。
わざとらしくため息を吐く。
「恥ずかしいからって下ばっかり向いてると、まーくんの可愛い顔が見えないだろ?」
「だ、だから、そういうこと言うか、っ」
お互い社会人になって働くようになっても、まーくんは出会った頃と何も変わらない。
…純粋で、恥ずかしがり屋で、…凄く、可愛い。
…だから、誰かに奪われないか、いつも心配になるんだけど。
ぐぬぬと反論してくるその小さな唇を指でぎゅっと掴んでみた。
むにゅ、としたやわらかい感触。あー、もういっかいキスしたい。
「……っ、む、むむ……!!!」
「"む、むむ"って、なに言ってるのかわかんないなー」
話したくても話せない状態のまま、ばたばたと手を動かして、それでもまだ何かを言おうとしている様子がたまらなく可愛くて、可笑しい。
込み上げる笑いを必死で堪えながら、ずっとそうしていると、段々抵抗が弱まってきた。
それから恨むような視線を向けてくる。…可愛い。
「仕方ないな」と指を離してあげるとほっとしたような顔をしたのが見えた。
…と、直後、
また何故か頬を染めたまま下を向こうとするから、
…もしかして、俺より床が好きなのか、と自分でも意味がわからない敵対心が芽生えて、その下顎を掴んで無理矢理にこっちに向かせた。
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