7

口を開けば吐息がふれそうな程、近い。


「え、え…っ、」


じんわりと、手で触れている頬が段々熱を増しているような気がした。


(…耐えたご褒美ってわけじゃない、けど)


恋人に触れるように、頬から耳にかけて優しく撫でるように触れる。

髪を軽く梳く。

少しだけそこにかかっている髪を避けるようにして耳の縁を指先でなぞると、頬を紅潮させたままぎゅ、と目を瞑った。

そんな佐藤の様子に満足して、ふ、と笑みを浮かべる。
ゆっくりと耳朶から指を離した。


「…っ、ぁ、」


すると、何故か名残惜しそうな声を漏らす。
その瞳がさっきまで触れてた手を追いかけているのに気づいた。


「何?もっと遊ばれたい?」

「っ、」


笑みを零して問いかけると、わかりやすく顔に出る。
仕方ないな、と息を吐き、今度はその首筋から上に擽るようにして触れていく。
普通なら冷たいはずの肌は、今は熱を持っているかのように熱くて、


「……佐藤」

「…っ、ん、」


耳元で低く呼び掛けると、は…っ、と熱い息を吐いた。
少しだけ唇が耳の縁に触れて、びくっと震える。


「……ん、ん…っ、ふ…っ」


ふ、と軽く息を吹き掛けると、鼻にかかったような甘い声を漏らした。
そして、指先でつーっと、耳の付け根から顔のラインをなぞるように触れていくと、真っ赤になっている頬に到達する。

そこを

ーーーむぎゅ、と指で掴んだ。


「…へ、」


つままれたことに驚く顔。
そのまま、みょーんと横に伸ばしてみた。
やわらかい餅みたいな感触。


「ふがが?!!」


…言葉にするのも躊躇われるほど、すごい間抜けな顔になった。


「僕を思うままに動かそうだなんて、百年早いよ」

「…っ、」

「…もし今佐藤が恋人だったら、望み通りに唇を塞いでも良かったんだけどね」


残念、と眉尻を下げて微笑んで見せる。
と、目の前にある顔が、悲痛にくしゃりと歪んだ。


「俺が、…好きな相手なら、キス…してた?」

「……してたって言ったら?」

「…っ、ぅ、…むねが、痛…」


絞り出すような声でそう呟き、佐藤が胸の辺りをおさえて、苦しそうな顔をする。

……いつも僕の一挙一動に振り回され、戸惑ってあたふたして、涙を堪えている。
そんな健気な姿を見ていると、…何か言葉にできない感情に囚われたような気がした。

既に涙でべたべたになっているその濡れた感触を肌で触れて感じてみる。


「…なんでかな」


首を傾げてぽつり、疑念を口にした。


と、きょとんとした佐藤の瞳が瞬きをして、


「…ぁ、あの…?」


と掠れて上擦った声を零した。
泣きすぎたせいで目の縁が少し赤くなっている。


「なんで、って、なんの、話…?」


流石にこんな間近で長時間見られることに耐えられなくなったのか、数秒重なっていた視線はどもりながらすすすっと逸らされる。
ひぐ、と涙の余韻で嗚咽を漏らした。


「……?」


気まずそうにチラッとこっちに視線をなげては首を傾げ、そしてへらっといつものように間の抜けた笑みを浮かべる。

それを全部無視して、答えを求めるようにじとーっとその顔を観察していると、もう一度恐る恐る戸惑いを含んだ視線を戻してきた。


「う、うう…」


この状況がかなり苦しいらしく、うめき声を上げながらトマトみたいに真っ赤になる。
そんな佐藤の顔から視線を動かさず、手探りで下にある性器を探り当てた。

ペニスに触れられ、「っ、」肩を跳ねてびくつかせる姿。

指でその形をなぞるようにして触れていき、爪で跡をつけるように食い込ませ、痛そうに顔を歪ませて震えた場所を軽く指の腹で押してみた。


「…っ、ぃ゛…ッ、」


その泣き顔に、満足して笑む。


「ぁ、わ、わざと、ひど…っ、」

「うん。ごめんね」

「…っ、あ、ああ謝ればいいと思って…っ」


優しくされては痛くされ、痛くされては優しくされての繰り返し。
もう限界、と訴えるように、その瞳にまた大量の涙の膜が張って、ぼろぼろと今流れているものに新しい涙が加わりながら零れ始めた。


「ばか…っ、のらのばか…っ」


流石に許せなかったのか、戸惑いを含んだ抗議の声が飛んでくる。
その眉を垂れさせて泣きじゃくる佐藤の頬を幾度となく伝っていく透明なもの。


(…嗚呼、やっぱり)


どうして、ともう一度心の中で呟いた。
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