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明らかに目に見えないしっぽがぱたぱたと揺れていた。
すぐ耳元で聞こえる声は、感極まったような掠れた音を零している。


「だ、だからさっきから心臓にわる…っ、い…」

「よしよし」

「…っ、野良が、優しすぎて、し、幸せすぎて、……あう、…」


騒ぐ犬を安心させるように髪を撫でると、嬉しそうにへにゃっと笑ってぽろぽろと涙を流していた。
…しばらくそうしていると段々落ち着いてきたらしい。

じたばたしていた佐藤の動きがようやく静かになった。

そして、おずおずと躊躇いがちに背中に手を回してきて、…その腕が触れるか触れないかのところでぴたりと止まる。


「いい…?」

「何が?」


機嫌を窺うような声に、首を傾げる。

と、佐藤は「あの、えっと、」と何故か緊張したように口ごもる。
それから一瞬黙って、ずず、と鼻を啜り、涙の余韻を残した声で躊躇いがちに聞いてきた。


「……その、おれが、抱きしめ返しても、」

「…うん。いいよ」

「…っ、」


僕に拒まれないのかわかって安心したのか、ぎゅっと服を掴む手に力が込められる。
隙間もないくらいに、お互いの身体が密着する。


「ぅ、…ひっ、く…っ、の、ら…っ」


泣き声で何度も何度も僕の名を呼んで、


「………す、き……だ…っ、」

「……うん」


一生懸命に縋るように抱き締めてくる腕とその呟かれた言葉に、瞳を細める。
それに対して他に何かかける言葉も思いつかなくて、ひぐ、ひぐ、と嗚咽して泣く佐藤の背中を優しくぽんぽんと叩いた。


「ひっく、ひぐ…っ、う゛ー、」

「……」


肩に顔を埋めている佐藤の耳が真っ赤に染まっているのを横目に意識を違う方に向ける。
まだ、残ってる感情。


(…嗚呼、もしかして)


僕は殴られたり蹴られたりして泣く人の顔が好き、みたいな嗜虐趣味のようなものがあるのかな。

だから泣き顔が好き、とか。
それなら説明がつく。


「…別に、元々嫌いではないとは思ってたけど」


導き出された結果に、喟然として嘆息をもらした。

…あーあ、こんな自分の性癖知りたくなかった。なんて小さく呟いた言葉は、宙に浮いて分散した。

――――――――

いつものような元気な声はなく、ただひたすらにぎゅうううと強く抱きしめてくる。
よしよし、とそのやわらかな髪を撫で、瞳を伏せた。


「…本当、佐藤は馬鹿だな」


(早く僕のことなんか、嫌いになればいいのに)
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