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…忘れられない。
あの地獄みたいな時間を、二度と繰り返したくないと思った時間を、
……どうやっても忘れられない。
「中学の時の、」
舌触りの悪い音。
その言葉だけでわかったらしい野良が、「…ああ、」と納得し、瞼を軽く伏せた。
「……」
「わかってると思うけど、昔みたいには可愛がってあげられないよ」
示されている意味に、心臓が痛む。
わかっている。
わかっているんだ。
俺だけ、置いて行かれている。
野良は前に進もうとしているのに。
俺だけが、ずっとあの場所にいる。
「俺、野良になら、何をされてもいい」
「……」
伝えた本音に、野良の無表情が少し変化したことに気づく。
けれどその端整な顔に浮かんだ感情は読み取れず、静かに視線が逸らされた。
自分から視線を外すことがない野良にしては珍しい反応に目を瞬き、緊張に唾を飲み、震える唇を動かす。
「ストレス発散に使っても良い。殴っても良いし、何に使ってくれても良い。野良に、俺を好きになってもらえるように頑張るから、だから…」
『野良の特別になりたい』
言おうとして、躊躇い言葉を飲み込む。
無理なことを言っているのはわかってる。
野良は普通に女が好きだ。
そもそも嫌って程女にモテるのに、わざわざ男をそういう対象に見るはずがない。
「道具みたいな扱いしかしないけど、それでもいいの?」
「…っいい、!!それでも、いい」
「…ふぅん」と小さく呟かれた言葉に、顔を上げる。
と、
「なら、あの人より僕が佐藤を好きになれるように頑張って」
”彼女”のことを話す時はいつもその顔をする。
普段より少しだけ苦しくなるような表情でそう微笑んだ野良に、またしても俺は泣きたくなった。
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