甘ったるいご褒美(佐藤ver)
***
今日、事件は起こった。
…目の前で繰り広げられている光景に、むむ、と首を傾げた。
心の中でぽつり、疑念が湧く。
(……野良が、おかしくなった)
普段なら無表情か、または冷たい表情を浮かべている
はずなのに
「佐藤、おいで」
酷く優しい表情と、声音。
優雅にソファーに腰かけながら、まるで童話にいる王子様のように俺に手を差し伸べてくる。
「……あ、あがが」
(…これは、夢か?)
ほっぺをぐにぃーんとつねって引き伸ばしてみる。
痛い。夢じゃない。嬉しい。泣いてる。
……つい先ほどまで、ソファーでいつものように小説を読んでいた野良。
そして俺はそこから少し離れた場所でその麗しい御様子を窺っていた。
そして邪魔かな、傍にいってもいいかな、とうろちょろとしていると、先程のお声がかけられたのだった。
「…嫌ならいいけど」
「ぁ、いや!!喜んでお傍に行かせていただきます!」
ふい、と逸らされる視線にあわあわと慌てる。
どびゅん!と光より速い速度でその隣に遠慮がちに「し、しつれい…します…」とちょこんと腰かけた。
…と、
グイ、
「っ、の、の、のら…っ、?!」
肩を抱き寄せられ、ぽすんとその首筋に頭が当たる。
(…え、今、え…?)
後ろの首の少し下あたりに回されている腕。
肩をぎゅっと掴んでいる手の感触と、
何より、すぐ近くにある野良の顔。
心臓が飛びあがる程驚いて、息を呑む。
「え、ええ…っ、?!」
「…どっか別の方向いてろ」
…野良もちょっとは恥ずかしいのかもしれない。
少し照れたような表情で(錯覚か妄想かも)ぶっきらぼうに吐き捨て、もう片方の手に持っている単行本の文章に目を落としている。
「おぼ、おぼえてて…っ、くれた…んだ…?」
「…佐藤が毎回煩いから」
もうそんな理由でもいい。
それでもいい。
だって、
…なんと、以前から俺がずっとやってほしい!とお願いしていた行動をやってくれたのだ。
”本読んでていいから、ぎゅって肩を抱き寄られたままの状態でいたい!”
なんて、絶対に実現不可能だと思って言っていたのだが。
「…(……思ったより、これは心臓と下半身にクる)」
テレビで見て憧れていた時とは違う。
客観的に観察してるのと、こうやって実体験するのではまるで違う。
「…っ、ぬ、ぬ」
じゅわーっと顔が沸騰する。
いや、浸っている場合ではない。
この際だ。
こんな機会二度とないかもしれないんだぞ。
ならば実感するために、もう一度今の状況をおさらいしてみよう。
「…(…ごく、)」
全身の神経を研ぎ澄ませる。
…すぐ傍に感じる息遣い。
肩を抱いている手の感触。
頭にぽすんと当たった首筋は透き通るような肌で、筋のラインも綺麗ではぁはぁと息を荒げたくなる。
そして香ってくるいい匂いに鼻血が出そうになった。
しまいには、顔を上げれば、間近にこの上なく整った野良の顔がある、わけで、
しゅううと全身から湯気が出た。
[back][TOP]栞を挟む