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あの揶揄うような、でも少し嬉しそうな笑みで、
結局、さっくんがいないとだめなんだと、少しでも離れればずっとさっくんのことばかり考えていたのかと、そう思われてしまう。
…違う。違うぞ。
全然気にしてないし。どうでもいいし。さっくんなんか、もう執事でもなんでもないんだから桃井と何をしようが、
「い、今のは間違いだ。別に、さっくんのことなんか、」
「――”何してた”って、」
どうでもいい、と慌てて否定しようとすると、…冷たい声が、被せられて、
「貴方に、関係ありますか」
「…っ、」
突き放されたような気がした。
(…―――――え、)
初めて、そんな言い方をさっくんにされた。
ドクン、ドクン、と心臓がやけに煩い。気持ち悪い。
ここに来た時から気持ち悪さは異常だったのに、もっともっと気分が悪くなった。
…ああ、やばい。泣く。このままここにいたら、泣いてしまう。
「…そ、そうだったな。さっくんは、もう執事でもないわけで、オレになんの関係もないしな…っ、」
上擦った声で、やっとそれだけ言い返し、背中を向ける。
見られたくない。
さっくんの言葉にショックを受けて泣くところなんか、絶対に見られたくない。
「もういい、帰る…っ、」
こんなところ早く出よう、早く、早くと急く感情に背中を押され、保健室のドアを開けようと指をかける、と
「――彼女のために、って言えば、満足ですか?」
すぐ後ろから、声が聞こえた。
オレの形に被さるように影ができる。
同時に、
…まるで逃がさないとでもいうように、顔の横を通って目の前のドアにつかれた手。
「…っ、」
いつも羨ましいと本人に何度も言っては憧れてた…上品な男らしさに魅せるすらっとした綺麗な手が、今は羨望よりむしろ自分を閉じ込めようとする怖いものに思えて、びくりと身をすくませた。
俯いた視界の端には、背中や腰に触れる彼の白衣と長い脚が見える。
そのままオレに体重をかけるみたいに身体を寄せてきて、背中に感じる密着度が増えると更に気持ちが縮こまった。
しかも耳の裏に低く掠れた吐息と唇が軽く触れ、
「…っ、や、」
一瞬声をあげかけた唇を、ぎゅっと噛んだ。
今のは絶対にわざとだ。
思うように反応してたまるか。
泣く準備万端だった喉を動かしてごくりと唾を飲み込む。
遅れて、さっきのさっくんの言葉を理解した。
「……満足、って、」
なんとか平静を保って、戸惑いに目を瞬く。
なんでそこでそういう単語が出てくるんだ。
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