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「今は、オレがどうとか、そういう話をしてるんじゃ、」
むっと眉を怒らせながら、吐き捨てて、振り返ろうと頭を動かす。
いやだけど。
本当にこの泣きそうな顔を見られるのはいやだけど。
…元主人たるもの、怖気づいてると思われてたまるか。
たとえ振り返ったとしても、どうやっても見上げる角度になるのも癪だが。
…とうんぬんかんぬん考えながら顔を後ろに向けて、
「…っ゛、!」
(うわ、)
危うく声を上げるところだった。
ちょっと上、キスでもするのかってくらい、
オレに壁ドンするためにちょうど良い感じに腰を屈めていたさっくんの顔が、すぐ至近距離にあって、
「…っ、」
「……」
避けるのも負けたみたいで嫌だから、まっすぐに、その顔を睨み上げることにした。
色んな意味で泣くのをぐっとこらえる。
「……っ、…っ、」
「……………」
(…う、う)
お互いに無言のまま逸らされない視線に、最早泣き出したい。
にらめっこした時に毎度オレが勝ててたのは、さっくんが勝ちを譲ってくれてたからなんだって初めてわかった。
「……っ、…っ、…ッ、」
この居たたまれない空気に、引っ込めたはずの涙がまた目に水の膜を張る。
ガクガクと膝小僧が震える。
そんなオレをただただ何の感情もなく、まだオレの後ろ…ドアに手をつけたまま見下ろしてくるさっくんに、ちびりそうになってきた。
「…っ、……っ、〜〜〜っ、」
ぶわわわと言い訳のしようもないぐらい、涙でいっぱいになったそこから零れ落ちるのも時間の問題だった。
…いつものことながら、こうして間近で彼を見ると考えなくて良いことまで考えてしまう。
普段はふわりと柔らかく微笑んでくれるから、そこまで気にならない。
けど、今こうして笑顔が消えているその整いすぎた顔立ちや身体つきは、神様によって一生懸命精巧に作られた、良く出来た人形みたいだった。
…ただでさえ無表情になると怖いのに、
それに加えて、今はスッと冷たく細められた目が鋭くて、身が竦んでしまいそうになる。
「…今、夏空様が考えてること、当ててみましょうか」
「………え?」
ガクガクブルブルと明らかにわかる震えに耐えながら睨み返していると、…数分後、やっとのことで相手が口を開いた。
…と、思ったら、指先で唇に触れてくる。
どこか影のある、でも艶やかな表情で、オレの唾液で濡れたその指を塗り付けるように唇の端から端までなぞってきた。
「”この歳になって、泣いて漏らしそうになるなんて恥ずかしすぎる。オレ、高校生なのに”」
「…っ、!な、」
今考えてたことをそのまま一言違わずにいいあてられて、思わず目を丸くする。
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