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正解、と言わなくても明らかに顔に書いてあるだろうオレの表情に、さっくんがかすかな笑みを浮かべた。
「一度も、出してないんでしょう?」
「…っ、だ、って」
何を、なんて言われなくてもわかる。
今のさっくんが怖いからって漏らしそうってのもあるけど、今日一日記憶の有る限りでは一回もおしっこを出していない。
でも、ちゃんと水分は十分すぎるくらいにとってるから、尿意は…勿論あるわけで。
トイレに行ってないんじゃない。
……行っても、意味なかったんだ。
図星を突かれて自然とさがる視線に、目の前の顔が何もかもわかっているような表情でほくそ笑む。
「…"だって、"…?」
「だっ、て、」
もごもごと呟き、顔を背けようとするが、顎を掴んできた指に勿論許されるはずもなかった。
「…さっくんが…っ、…して、くれない…から…」
言葉尻が、薄れて消える。
顔が、熱い。
今日初めて、気づいた。
……自分は、ひとりではまともにおしっこだってできないことに。
いつもトイレだって、自分ではやってなくて、
さっくんにやる必要がないって言われてて、さっくんにさせてもらってて、…
「…だから、オレ…おしっこ…でき、なくて…」
色々限界で、涙が溢れてきた。
悔しさにさっくんの服を震える手で掴んで、睨みつける。
こんなにこっちが困ってるのに、澄ました顔のまま何一つ乱れていないのがむかつく。
「…っ、う、ばか、ばかぁっ、…さっくんのせいだぞ…っ、」
…だから、この年になって凄く凄く恥ずかしいけど、……いざ自分でやってみようとしたら、ズボンのベルトを外すのさえ時間がかかってうまくできなくて、…どうやったらいいか、わからなくなった。
アホだ。おしっこさえまともにできないなんて、情けなさすぎる。
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