10
一瞬で心が恐怖に染まり、身が竦む。
それでも、となんとか意識を保って視線を返せば、くすり。微笑みと共に瞳が細められた。
「ぃ゛…っ、」
「…怪我をすれば、貴方は絶対にここに来るでしょう?」
爪でにゃんこに噛まれた傷口を抉られ、止まったはずの血が、滲んでくる。
「ぃ゛、だ、やめ、やだ、」
そこを舌先で舐められ、そうしてくるさっくんの表情とか、びりっとした痛みに顔を歪ませた。
足が、自然と後ろに下がる。
首を、ふるふると横に振る。
「俺が、怖いですか?」
「さ、さっくん、やだ、おれ、やだ、」
逃げようと、「…おれ、かえる…っ、きょうしつ、もどる、から」お漏らしなんて後回しで、とにかく誰か他の人がいる場所に行かないと、と助けを求めるようにふらつきながら、ズボンがずり落ちてるのにも構わずに、もう一回保健室から出ようと試みる。
…と、腕を掴まれた。
「…っ゛、ぃ゛、た…!」
強く引っ張られて、無理矢理歩かされる。
…保健室の中央、二つあるうち、カーテンの開いてる方のベッドに向かってるのがわかって、血の気が引いた。
「…っ、…ぁ、あ、…やだ、やだ、って、離…、っ゛!」
有無を言わせないような強引さで、
…――ベッドの上に、放り投げられる。
背中に当たる固い布団の感触に呻いている間に、シャ―ッとカーテンを閉める音がした。
「…隣で香織が寝ているので、…声、出さないでくださいね。」
「…っ、」
まっしろな白衣。
保健室の、天井。
目の前で、しーっと人差し指を唇に当てたさっくんに、組み敷かれた。
「――っ、」
(なんで、こんな、)
助けなんて、こない。
カーテンが締まってて、しかもさっくんが上にいるせいで余計に影になって視界が暗くなる自分の状況に、
冷える。
心臓が、冷える。
ゾッとする。
「…ぁ、う…」
頬を撫でられた。
冷たい指がそこをなぞり、首筋におりていく。
頸動脈を撫でるように触れ、ワイシャツを軽くおろして鎖骨の形を端までゆっくりと辿った。
「…っ、触、るな…」
身体を厭らしい手つきで触ってくる指を離そうとすれば、ぎゃくにその手を取られ、痛いくらいに手首をベッドにおさえつけられた。
「……っ、こわい、こわい、から…やだ、」
「――黙って」
「…ッ、…ん、ぅ、」
震えながら顔を背ければ、無理矢理吐息とともに唇を押し付けられる。
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