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まだ感触がはっきりと残っている。
き、キス、手の甲に、キス、って、…!!

前はよく遊びとか、そういう感じでやったりしてもらったことあるけど、でも、でも…!!

タイミングがおかしいだろ…!!


「だ、誰かに見られたら、」


手を離し、上気する頬を隠すように急いで辺りを見回した。

ここは学校の中だ。
まだ登校時間には少し早いとはいっても、いつどの生徒に見られてもおかしくない。


「大丈夫ですよ。今は誰もいません」

「…、人がいないからいいってわけじゃ、」


心の準備とか、しかも跪いて手の甲に口づけるその姿に見惚れてしまって危うく死ぬ寸前だったとか、そういう諸々の覚悟を用意してからじゃないと云々と心の中で邪な気持ちが混濁する。


「…嫌でしたか?」

「っ、」


目を伏せ、軽く傷ついたような表情を滲ませる顔に、…ぐ、ぐ…ぅ、…と呻いた。


「……………嫌とは、…言って…ない……」


掠れるほど弱く、絞り出した声。
…狙っていつもやってるならほんと許さんぞ。


「…以前なら平然とされていたように思うのですが、…そこまでわかりやすく赤くなられてしまっては、すぐにばれてしまいそうですね」

「…っ、うるさい、」


何がばれるか、なんてのは言われなくてもわかる。
…やはり、この男はわかってて、今の行為をしたのだと知らされた。


「…本当は、教室まで送らせていただきたいのですが、」

「さっきも言っただろ。ただの一生徒がそこまでされるのは良くない」


体調も心配だからと過保護な執事に、せんせーなんだからだめだと感情をおさえられずに少し声を荒げて念を押す。

…他の生徒を甘やかしたり優しくするのはだめだと言っておいてなんなんだという感じだが、それでもだめなものはだめなんだと送ってもらいたくなる自分を戒めた。


「……そうですね。仰る通りです」


寂しそうに笑みを浮かべて同意した執事に、またうぐ、ってなる。
惚れた弱みか、今まで以上に罪悪感に苛まれた。

…こっちが凄く悪いことをしたような気分になって、いたたまれない。


「…じゃあ、頑張れよ。せんせー」

「はい。音海くんも」


他人行儀な呼び合い方。

オレも家とは違って、大人ぶった態度に変える。

少し距離が開いたような気持ちになるが、これでいいんだと納得させた。
そのぐらいしないと、…さっくんの言う通り、オレの気持ちが露呈してしまう可能性が高い。

色々ぐちゃぐちゃな感情を隠し、手を振って校舎に向かった。
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