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しかし、その一瞬の反応が、彼の笑みを深くするには十分で。
「ふぅん。なぁ、正孝に前やってたみたいに、俺にも抱き付いてみろよ」
「…な、」
「いいだろ?別にシちゃいけない行為でもない」
それは、かなり仲の良い友人との行動としてならそうだけど、…吉野のことはほとんど何も知らないし、そもそも男同士ですることではないだろ。
というか、正孝にそんなことをした記憶がない。
あったとしても、不可抗力で本意ではなかったはずだし…どっちにしても教室では一度もなかったはずなのに。
「ばらされたいか?今ここで」
「…っ、」
”お前が雨宮を好きだってこと”
目で伝えられた言葉に、息を呑む。
厄介な人間にばれてしまったのだと、今更思い知った。
わか、った、と絞り出した声に、力はない。
けど、これで吉野の機嫌がよくなるならなんでもいい。
抱き締めるくらいなんだというのだ。
深く考えるほうがおかしい。
「目、閉じて」
別にキスするわけでもないけど、見られてるとやりづらい。
腰を上げ、近づく。
素直に目を瞑った吉野を前に息を呑み、ゆっくりと持ち上げた手を伸ばす。
瞬間
――ざわ、と周囲が騒がしくなったことに、気づかない。
頭の中は一個のことで埋め尽くされていて、そっちに意識を回す余裕がなかった。
「……?」
目を閉じてくれと言ったはずなのに、微かに目を開けた吉野の視線が動き、…何かを捉えて止まった。直後驚いた表情で硬直する。
…どうした?と、声をかけようと して
「夏空様」
不意に背後に感じた気配に、振り返る間もなく抱き締められた。
(――え、)
頭に触れる吐息と、聞きなれた声音。
優しいのに、どこか冷たさを滲ませている声に、…慣れた感触と香りに、後ろに誰がいるのかを知る。
身体に回された腕によって、目の前にいる吉野から遠ざけるように引き寄せられた。
「…何を、していらっしゃるのですか?」
オレが悪いことをして、咎める時と同じ。
…背筋が凍りつくほど温度のない声が、耳元で囁いた。
ぎゅっと包むように胴を抱き締めてくる腕に、ゾク、と震える。
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