18
相思相愛の恋人と別れさせられたとでも言いたげに涙ながらに訴える。
”ずっと一緒にいるはずだったのに、音海くんが戻ってくるように命令したから。
邪魔しないで。
そんなに自分だけが特別だと思ってるの?いい加減にしてよ。
知らないでしょ?
セッーーの時――、
咲人が――することも、
私といるときに、――で、
――の時に、――するってことも、
それに――――――、
ほら、やっぱり何も知らないんだ!
咲人と結ばれるのは私なの。咲人のご主人様は私。音海くんじゃない。
たくさん愛してくれた。可愛がってくれたの。私が特別。彼にとって大事なのは音海くんじゃない。
返して。咲人を返して。”
怒りに目に涙を浮かべてまくしたてられる。
妬心。粘ついた執着。嫌悪。支配欲。憤怒。他にも色んなものが混ざった声を全部露わにされたものを浴びせられる。
「……っ、」
逃げ出したくなる言葉が刃になって無数に心を抉った。
その情景が浮かぶような、耳にしたくない行為や感情を詳細に気が狂いそうなほどぶつけられ、おかしいくらいに揺れる。
…こっちが泣きたい。
オレだってさっくんが好きなのに。
好きで好きで好きで仕方がなくて、……それでも、恋人にはなれなくて、
…桃井の言うように、そういう意味の特別ではないってわかってるけど、なれないって知ってるけど
だから、余計に二人がオレのいない場所でしていたことなんて
……そんなの、聞きたくない。
「咲人は幸せそうだったもの!私といるのが一番だって思ってるの!」
子どもじみた態度で投げつけられた台詞に、…憎悪に似た感情がわいた。
全身を巡る濁った気持ちがどろどろと途方もなく滲み出てきて、それを隠せないままに睨む。
「…好きなら、なんであんなことしたんだよ」
忘れない。忘れられない。
[back][TOP]栞を挟む