19
さっくんの身体にあった目を背けたくなるほど多い傷跡。
痛々しいキスマークの数も、血が滲み、鋭利なもので幾度も切ったような真新しい切り傷も。
「さっくんをあれだけ傷つけておいて『幸せそうだった』?」
”…彼女が、俺に望まれたので”
鼓膜に残る声。
すべてを諦めているような、暗い表情。
例えさっくんが受け入れたとしても、あんなの普通じゃない。
好きだからってしていいことじゃない。
ふざけるな。
「お前のおかしい妄想にさっくんを巻き込むな」
「…っ、な、」
睨み据えたまま冷たく言葉を吐けば、一瞬驚き、絶句した。
次第に怒りに顔が真っ赤になっていくのが目に見えてわかった。
「おかしい妄想って、何様のつもり――」
「さっくんの主人はオレだ。桃井じゃない」
「…――っ、」
キッと目を怒らせ、叩こうとしたのか手を振り上げた桃井の腕を掴む。
掴んだまま椅子から立ち上がる。
指に少し力を込めれば、苦痛に顔を歪めた。
「ぅ゛、…な、なに、よ…、」
オレの方が背が高いから、自然と見上げることになった桃井の表情に怯えが滲む。
「もう誰にも傷つけさせないし、二度と誰かにいいようにさせたりしない。」
元を辿れば、桃井が最初にさっくんを執事にしたいっていう桃井の提案を受けたオレにも非がある。
…あの時、了承しなければよかった。
そうすれば、さっくんがあんなに傷つくことはなかったのに。
嫌な思いをさせてしまうことはなかったのに。
後悔に押しつぶされ、瞼を伏せる。
「わ、私がいつ咲人を傷つけたのよ…!さっきから意味わからないことばっかり言わないで…!」
「……」
「咲人だって認めない!認めるわけない!こんなの、絶対に認めない!」
肩で大きく息をし、涙で目を赤くしながら先程より威勢のなくなった態度で、それでも食い下がろうとしてくる。
…まだ言うのか、と呆れる以外なかった。
「じゃあ、実際にさっくんに言われれば納得する?」
「…っ、」
問いかけた温度のない声に、桃井が怯んだように息を呑んだ。
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