23

咲人が、私を見もしなかった。

そう自覚した途端、沸騰するような苛立ちが拳を握らせる。

今、声をかけたのは私なのに。
私なのに私なのに私なのに私なのにそいつじゃないのになんでなんでなんで。


「…(おかしい、こんなのおかしい、おかしいおかしい…)」


誰かに見られたら困るからと、音海君に部屋を移動させられた。


「これは、どういうこと?」


咲人が音海君の方にいるのもおかしい。
私の傍にいるべきでしょ。

真ん中に線を引いたとしたら、本当に自分が悪者みたいな構図になっている配置に不快感が止まない。


「何よ…っ、何なの。咲人は私のものでしょ…?ねぇ咲人、何か言ってよ」


縋るような目を向けるが、咲人が応えてくれる様子はない。

…咲人、咲人、咲人。
こんなに近くにいるのに、どうして。


「その前に、さっくんがいる前で確認したいことがある」

「何?」


咲人を庇うように身を前に出し、やけにもったいぶった話し方をする音海君に怪訝に言葉を返す。


「桃井はさっくんを傷つけてないって言ったよな?」

「当たり前でしょ」


何も咲人が傷つくような言葉なんか吐いてない。

音海君とちがって、無理やり権力で従わせてもなければ強引なこともしていない。


「これのどこを見たらそう言えるのか、言ってみろ」


音海君が指示を出すと、咲人が自身の服に手をかける。

何をしようとしているのかはわからないけど、布ずれの音を立てて白衣、ネクタイ、ワイシャツと脱いでいく咲人に、数日前に見た整った身体つきを鮮明に想起し、高揚する。
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