5
大切な人が自分のことを軽く扱うのは、誰だって嫌なはずだ。
傍で見ていれば尚更歯がゆくて、…苦しいし悲しい。
「俺には、わかりません」
「っ、」
「…ずっと、そうやって生きてきました」
ぽつり、零される声に影が落ちる。
さっくんがオレと会うまで、何をしていたかは知らない。
聞けない雰囲気だったから、追及したこともない。
「大事な人、だからだ」
「……」
「オレにとって…さっくんが他の誰よりも大事だから、悲しい気持ちになるんだよ」
「…それに、何より」と続け、本心を吐き出す。
「好きな人が…さっくんが他の女とキスしたりするのを見るのは、オレが嫌だ」
「…っ、」
返した言葉に、彼は苦しそうに、揺れた感情を隠すように目を伏せた。
「昔は自分のために、と。ただそれだけの無意味なものでしたが、今は貴方のために使うことができる」
「これ以上の幸せはありません」と笑みを零した気配。
それと同時に、「え、」背中に手が回され、さっくんの上にのっかっていた身体をごろんと横に倒される。
ふかふかしたベッドのシーツが触れ、ぎゅうとそのまま抱き締められた。
さっくんの優しい香り。オレを包む体温。それだけで自然と気が緩んで反対の声も上げられない。
「ですが、先程仰ったことは、もう二度としないと約束します」
「…っ、ほんと…?」
「はい。夏空様のご負担になってしまうのは本意ではありませんし、それに…俺も、せずに済むのならそれが一番だと思っていますから」
布擦れの音とともに少し離れた彼が、
オレと目が合うと…、華が咲いたように無邪気に破顔するから、
何も、言えなくなる。
…と、するりと指の間に差し込まれた指によって恋人繋ぎをする格好になる。
「その代わり、一つだけ望んでも宜しいでしょうか」
指を優しく絡め、合わさった手のひらがやけにじれったくて擽ったい。
「望み…?」一体何だろうと首を傾げつつ、目をぱちくりする。
さっくんから何かしてほしいって言うのは珍しい。
いつもオレがこうしてくれ、ああしてくれってそればっかりだったから。
今回は色々嫌な思いもさせてしまったし、何でもしてやろうと意気込む。
「次の日曜日、貴方の一日を俺にください」
「…んん…?いいけど、なんで…?」
そんなに改まって言わなくても一日くらいいつでも貸し出すのに。
…というか、代わりというにはとても簡単なことすぎて拍子抜けした。
了承した途端に感謝の言葉を述べ、酷く嬉しそうな表情でオレを抱き締めるさっくんに、更に??と頭を悩ませる。
けど、その幸せそうな笑顔にほっと息を吐いたのもまた事実だった。
[back][TOP]栞を挟む