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チッと舌打ちする音。
まぁいいかと相手は納得し、

『俺さ、つけてたんだ』と、カメラ越しのオレを見つめるかのようにじぃっと視線をこっちに向けた。

「つけてた、って…」と頭の中で漢字変換できず、おうむ返しにすると「あの日、学校帰りに尾行した」と返事がくる。

……通学時は基本、車だ。
徒歩はよほどのことがない限りしない。

なら、

…いつ?

誰と、誰の?

喉が渇く。
何も知らないはずなのに、動悸がする。


『宮永がいなくなった日』

「…――っ、」

『見たんだ。俺、お前と宮永が一緒にこの家に入っていくとこ』


言い切った。
淀みもなく、本当に、見られたのだと。


「涼の、」


口の中が、苦い。


「……ぁ、」


少し、思い出した。

暗い彼の瞳に、いつかを重ねて、
あの時のさっくんの表情が、よく似ていて

ああ、そうだ。

いつのことだったっけ。
インターホンから視線を外す。

一緒にいるリビングに、思い出す淫らな行為。
 との、はじめての


(………)


「りょう、…?」


漏れた声が、空虚に揺れる。


「せんせーが、ゆくえ、ふめいって」


下腹部を濡らし快楽を与え続けられる感覚と、

”夏空は、僕に恋してるんだよ”

恋、って、


”――良く、出来ましたね”


雨に濡れた黒髪から伝う雫


『横たわっている、
トマトを潰して滅茶苦茶にぶちまけた、その色に染まっているあれは、
見覚えのある淡いベージュの、髪の、毛 と、 

ぐったりした、頭  』


酷く泣きそうな、さっくんが、

”宮永涼が 壊れた”


「――…ッ、゛?!」


上下が反転し、胃酸が喉を突き上げてくる感覚に、思わず口をおさえる。
頭が、痛い。割れるように痛む。痛い。痛い痛い痛い痛い。

ぐるぐる  ぐちゃぐちゃ べちゃべちゃ ぐさぐさ


『お前さ、涼となんかあったのか?あの日、一緒に帰ったって朝霧が』


正孝が、

…”見た”って吉野が、


”え、…な、夏空、――なに、”


鼓膜に残る、   が、


「……――…、く…」


酸素が、薄い。
出した声が、自分にすら聞こえない。
頭痛が、反響する。
折れる。
腕の、胸の、音が、声が

(なに、これ、これ、なんで、)

冷汗が出る。
心臓がおかしい。


さっくんは、どこ、に


…さっくん、


助けて


「――っ、さっくん…!!」


バリン、と身体の中の 何か が割 れる。
手 を伸ばす。

怖い。
怖い。…こわい。こわい。

全てを知っている彼の名を、

喉が裂けるほど、叫んだ。
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