彼と私の秘密(桃井ver)
***
「……う、そ…」
感嘆に声が漏れる。
とあるスーパー。
やけに人の視線を惹きつけている男がいると思った。
サラサラそうな黒髪と、息を呑むほどの美貌。
見慣れたスーツを身に纏う、すらっとした長身を目にした瞬間、これは運命なのだと思った。
もしかしたら、と思ってここまで来た。
けど、無理だって諦めてて、
「…っ、咲人…!!」
勢いよく腕を掴んだ私の方を、少し目を見開き、驚いたように振り返る綺麗な顔。
(…嘘、本当に会えるなんて、)
奇跡だった。
咲人に会いたい。
咲人と、話がしたい。
もう一度、咲人と…
なのに、学校に出勤してこない。
音海が体調不良で休んでいることを教師から聞いた。
そのせいで咲人まで休み続けて、なんて奴だろうと思う。
看病までさせて、きっと今頃音海は大事にされているのだろう。
許せない。
許せない。
私だって、
私のほうが先に会っていれば、
私の方が、咲人を先に執事にしていれば、
今音海の位置にいるのは、私だったはずだったのに。
そう思って、会いに来た。
いないかもしれないと思ったのに、…彼と会えた。
”さっくんに触れるな”なんて馬鹿なことを言う音海の言葉を守る気なんて全くなかった。
信じてる。
咲人があれを全て音海に言わされたんだってこと。
本人から早く聞きたい。
嘘だったんだって。言わされたんだって。
私が聞いてあげないと。
「咲人、会いたかった…っ、!!」
溢れる想いのまま抱き付く。
ああ、咲人の香り。愛しい身体。
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