15(夏空ver)

***


…さっくんが、桃井の執事になった。

………なって、しまった。


「……っ、…ばか」


ばかたれ、ばかばかと何度も口の中で呟く。


「………」


(…嫌だって言うと思ってた)


オレがいないと生きていけないってあんなに抱き締めてきたり、構ってたりしてきたんだから。

だから、さっくんなら、…絶対に嫌だって…、主人にするのはオレだけだって言ってくれると思ってた。

…そう、思ってたのに。


『音海君、確認してもいいかな?』


耳に残るはしゃいだ桃井の声。

教室を出る前に、約束をした。


・今日一日、さっくんは桃井だけの執事だってこと
・さっくんはオレを他の普通の学生と同じように扱うこと


…もう、どうでもいいと思った。
さっくんがそれでいいなら、もういい。


(…っ、ふん、ふんだ…っ、うそつきさっくんなんか、知るもんか…っ、)


『オレの望むことなら何でもする』…?嘘だ。そんなの言い訳だ。

もし本当に嫌だと思ってるなら、従えるはずがないんだから。


「…ぅ、ばか、ばか…っ、あほっ、くそったれ…っ、一生もどってくんなぁ…っ」

「…ぅ、お…っ、抱きつかれてぐりぐり頭突きされんのは嬉しいけど、全部あの執事にたいしてかよ。どうせなら今の体勢のまま正孝大好きって言ってくれ」


正孝の言葉に返す余裕はない。無視する。


嘘つきなさっくんなんか嫌いだ。

…オレの命令だから、なんて嘘を吐くさっくんはもっと嫌いだ。


…だって、たとえ執事だからといって、オレにそこまで尽くす理由なんかさっくんにはない。


だったら、なんでこうなったんだろう。


給料を払ってるから?…でも、お金に困ってる感じもない。

大事な家族だから?…もしそうだとしても、そんな理由でオレから離れる選択をすぐにできるのか。

昨日嫌いって言ったから?正孝と比べるようなことを言ったから?……だから、仕返しのつもりなのだろうか。

…いや、そこまでするほどさっくんは子どもじゃないし。


…となると、こたえは1つしかない。
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