16

……オレより、桃井の方が好きなんだ。


オレと比べて可愛いから。
拗ねたりしないから。
誰かと比べたりしないから。

…男じゃなくて、女だから。


「……う、」


勝手に考えて、落ち込む。

あれほど簡単に引き受けた理由なんて、それしか考えられない。


(…結局、オレじゃなくても良かったのか)


ぎゅうう…、


「…ぅ、」


今までにないくらい胸の奥が痛くなって、気持ちが重く沈む。

授業中、先生の言葉を聞き流しながら、ちらっと桃井を盗み見た。

普段に比べて、明らかに上機嫌な後姿。
朝はポニーテールだったはずの髪は、今はほどかれ、垂らされている。


……あの後、桃井は長い時間教室に戻ってこなかった。


けど、朝はちゃんと登校してきてたんだから確実に学校には居たはずで、

……だったらなんで、授業に出なかったんだろう。


(…さぼってまで、何してたんだ)


そればっかりが頭をせんりょうして…気にしないようにしようと思えば思うほど、気になってしまう。

桃井がいない間、…もしかしたら何かあったのかもしれないと心配になってきて、何度もさっきの空き教室に行こうかと思った。

椅子から立ち上がっては座り、廊下をぐるぐるしては立ち止まり。


でも、オレはもう関係ないしああもう気になるぐるぐると悩むこと数時間、


……――4限後の昼休み。


あっけなく桃井は戻ってきた。


「気分が悪くて、休んでたの。」


不在にしていた理由を友達にそう説明して

……しかも、さっくんも一緒だった。


「……(なんで、)」


ただでさえすらっとした長身に加えて羨ましいほど顔が整ってるのに、…今は更に保健室で先生をしているときと同じように白衣を羽織っている。

本人は無自覚らしいけど、大体の女子が好きだと言うそれらの要素は余計に周りの視線を集めていた。


皆が言うには、『甘い顔立ちのイケメンでしかも保健の先生でしかも白衣姿とかなんなのえっちすぎるでしょやばい咲人様に実技の授業してほしいされたいやばい』みたいだ。


……というか、今日は休みだったんじゃないのか。

そもそも、今日は女の養護教諭の先生だっているはずなのに、なんでさっくんが傍にいるんだよ。女子達がキャーキャーしてるのも全部色々まぜあわさってむっとしてしまう。


不機嫌オーラを出すオレなんてそっちのけにして、教室の扉の方でなされる会話。

見なければ良いのに、…意識はそっちに吸い寄せられてしまう。


「……ぁ、」


お礼を言って見上げる桃井にさっくんは微笑み、それに対して桃井は嬉しそうに笑って顔を赤くしていた。


「……っ、」


……そんな、…いつもと違う二人の空気感に、意味のわからない不快感が募る。
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