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………………桃井が、倒れた。


体育の授業でグラウンドを走っている最中、すぐ隣で起こった光景に驚き、足を止める。

急いで振り向き、地面にお尻をつけてへたり込んでいる姿に駆け寄った。


「…っ、桃井」

「……」

「大丈夫?立てるか?」


思ったより顔色が悪くなさそうだ。
しかも見た感じ怪我はないみたいで、ほっと安堵した。

…けど、立ち上がろうとしない桃井に、どこか悪いのかと心配になってくる。

もし気分悪いなら保健室に行こう、もしくは行った方が良い、とそんな感じの言葉をかけながら、手を差し伸べる

と、


「…嫌」

「……へ、」


チラッとオレの方を見て、何故かがっかりしたような顔をされた。しかも背けられた。


(…保健室に行きたくないってことか?)


それとも、思ったより酷くないって意味なのか、またはオレとは行きたくないって言いたいのかなとちょっとガーン!と打撃とショックを受ける。

行き場がなくなった手を無意味にふらふらさせてしまった。


「なんで音海君が来るの?咲人がいいのに」

「…って、言われても、」


……さっくんだって今は仕事中だろうから、来れるわけがない。


不満げに、小さい声でぽつりと願望を口にする桃井に、まさか今またその名前を聞くことになるなんてと、色んな意味でもっと困る。

…というか、いつの間にか呼び捨てになっていた。


(……朝までは様付けだった、よな……?)


トラックの中で座り込んだままのクラスメイトを心配し、気を遣う素振りを見せて数人が通り過ぎていく。
立ち止まろうとする生徒たちにランニングを止めないように声を張り上げて指示しながら、先生が遠くからこっちに来るのが見えた。


(…ど、どうすればいいんだ、)


一向にさっくんが来ない間は動く気配のない桃井に、呼んでくるべきかと迷う。

もしかしたら保健室からこっちが見えるかもしれないし、とにかく確認するだけしてみようと立ち上がろう とし…… て



「――香織、」



穏やかで優しい声が、聞こえた。


同時に、
ふわりと、風が頬を撫でる。

………その、よく見慣れた白衣が、


「…っ、ぁ、」


ひらりとはためき、横を通り過ぎていった。


「咲人なら、絶対にきてくれると思った!」

「…全く。駄々を捏ねて他の人を困らせてはだめだと言ったでしょう?」


仲睦ましげなやりとり。

声の方にゆっくりと目を向ける。

桃井の前に膝をついているその人の綺麗な横顔、に

…白衣の白さと対照的な、…艶のある黒髪に、息を呑む。


「……っ、さ、」


なんとなく、ほぼ無意識にかけようとした声を、止めた。
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