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そう心に刻んで、見つめる。

…彼の薄く綺麗な唇が、他の女の人と息が触れるほど近づき


「――っ、」


一瞬、視線が交差した。
…見てしまった。

(…なん…で、…?)

…勝手にキスしようとしてるのはそっちのくせに、

そんな顔、するなんて、


「…ぅ゛…、…っ、」


狡い。

やっぱりこの人は、どうしようもないほどに…狡いのだ。

(ずるい、ずるい、ずるい、)

また、彼の思い通りに動いてしまう。

涙に溺れた喉が、叫ぶ。
塩味に満ちた唇が、届きたくて持ち上げた手が、震える。


「…っ、ゆ、う゛ざん、は、おれ、の」


何を、してるんだろう。

泣く。

諦めよう。諦めるって、ほんとに思ってたのに。


「おれ゛の、だから、」


理性よりも先に、動いていた。

…これだけは、譲れないと思ってしまった。

譲れない。

何を失っても、どれだけ今汚くてぐちゃぐちゃな顔で泣きじゃくっていたとしても、どれだけみっともなくても、


「きす、しな、…ぃ、で…っ、」


縋りつくように、手を伸ばして彼に抱き付いた。
優さんの香り。身体。感触。

安堵する。
やっと、傍に来れた。
体温を感じられた。

嬉しい。
嬉しい。嬉しい。
最低だ。嬉しい。
苦しい。嬉しい。
痛い。嬉しい。

ぐちゃぐちゃな気持ちで、それでも他に変えられない喜びが胸を締め付けていた。
同時に途方もない悲しみが、身を引き裂くような苦痛が、全身を蝕む。


「優さん、ゆう゛ざん…っ、おねがい…っ、」


泣きながら、女の人から離すようにぎゅぅぅううってして遠ざける。
ガクガク震える足。
膝に思うように力が入らなくて、彼の腰のあたりに顔を埋め、首を横に振った。
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