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事実は事実だ。
そのことが存在しなかったことになるわけじゃない。
「…あのさぁ、今の自分の格好わかってる?凄い汚いし臭いの。優を汚さないで」
「っ、ご、めん、…なさ…」
声はかすれて消え、俯く。
無意識に優さんにぎゅってしてる手に力が入ってしまった。
髪や顎を伝って、どろりとした粘液が下に落ちているのが見える。
同時に優さんの服が濡れている。
汚い。…汚い。この人の言う通りだ。
最近少し伸びた前髪が瞼にかかり、そのおかげで少しでも彼から俺の表情が見えにくいだろうことが唯一の救いだった。
…触れることすら許されないような気がして、縋っていた腕は力を失くす。
「優、待たせちゃってごめんね。…キス、して?」
そんな必死な俺をあざ笑うように
彼女が、勿論自分が選ばれると確信しきっている表情で身を差し出した。
当たり前だ。
俺が彼女の立場でもそう思う。
だって、ついさっきまで正樹と交じりあってて、俺は今全裸で、精液だらけで、…きっと視界にいれたくないほどに酷いことになっているはずだ。
…話している間にも、腹に入れられた白濁液がごぽりと音を立てて尻から太ももを伝って落ちていた。
俺は触れるだけで優さんを穢してしまう。
比べて彼女は着飾った綺麗な格好のまま、おねだりする。
可愛い顔で、声で。
(…捨てられる。)
優さんはどう見ても彼女に想いを寄せている。
目の前で、きっと彼女を選ぶ。
「…っ、……だ…」
優さんが他の人にキスするところがなんか見たくない。
俺にいつも触れてくれた優しい手が、他の人を抱き締めるのは嫌だ。
俺の大好きな笑顔が他の人に向けられるのは嫌だ。
俺に好きだって言ってくれて、今までで一番の幸せをくれた言葉で、他の人が幸せになるところなんか見たくない。
嫌だ。
嫌だ。嫌だ。
「…ゆう、…さん…」
熱い瞼の裏。
滲んで歪む視界。
震える声。
…救いを求めるように、ほんの少しだけ、手を伸ばした。
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