※夢小説企画『夕闇世界』提出。
※早織ちゃんが『もし、2年の2学期をもって帰国しなければいけなくなっていたら』のifルートです。

(そして、極楽鳥花は咲く)

親から、冬休みいっぱいで帰国することを告げられた。
私と秀くんの関係は認めてくれているが、それでも私は帰らなければいけないらしい。けれど、離れていても私達の関係が切れるわけではないと知っているから、私はそれを受け入れた。
私は、秀くんにその旨を伝えたのだが――

「…帰る…って、本当か?」

彼は酷く寂しがっているようだった。
どうして、そんなに声が震えているの。ずっと会えなくなるわけではないのに。

「そうよ。…長期休みの時にはまた日本に来るわ。それに、会えなくても連絡は取れるでしょう?」
「…駄目だ、早織。…行くな、」
「ちょっと、秀…くん?」
「お前だけは、側にいてくれ…もし、側にいてくれなかったら…早織が、」

元々彼は、誰かを失うとなると情緒不安定になる傾向があった。米屋曰く、姉を第一次大規模侵攻で失ってからそうなってしまったのだという。
けれど、この違和感は何だろう。側にいなかったら、どうなるのだろう。
――その続きは、聞き取れなかった。

「冬休みが来るまでは、側にいるわ。…だから、」
「…っ、早織、」

それから何日か過ぎて、私の誕生日が近づいたが――

秀くんはまだ、私の帰国を認めていないらしい。私が入院でもすれば帰国はなくなると思ったのだろうか、昨日彼は私の左脚の骨を折った。
――まるで、鳥の羽でも手折るように。
手術が早めに終わり、幸い入院はせずに済んだが、ギプスで固定しての生活が続くのだそうだ。

「秀くん、私の質問に答えなさい。…どうして、こんなことをしたの、」

その解答は、予想外のものだった。

「…こうすれば早織の脚が手に入ると思ったんだが、やはり折った程度では駄目だったか、」
「待ってよ…どういうことなの、」

手に入るって、どういうことだろう。
確かに思い返してみれば、服や小物が幾つか無くなっていた時があった。その時は秀のお姉さんのものを貸してもらうことが多かった。
けれど、それだけならまだしも、私は昨日脚を折られてしまった。本当は切り落とすつもりだったようだ。
私の脚を切り落として、その次は腕でも切り落とすつもりか。もしかしたら手足では飽き足らず、髪を纏めて切ったり、眼球を抉ったりもするのだろうか。
それと私が帰国することと、何が関係あるのだろう。

「秀くんは私を向こうに帰したくないから、帰れないようにした。…違うの?」
「合ってはいるな。帰国を認めてしまえば、早織が手に入らなくなるだろう?」

そうだったのか。
あの時、側にいなければ私が…と言っていたが、続きは聞き取れなかった。彼はきっと、私が手に入らなくなると言ったのだろう。

「だからって、どうしてここまで、」

問えば、秀くんは私を喰らうように――それを遮る。

「…っ、しゅ…!」

手が上から抑えられていて、私は秀を上から退かすこともできない。
返答はまだ、くれない。
考えてみれば答えなくてもわかるだろう、そう言いたいのか。

視界に入ったのは、私の誕生日にと花瓶に飾ってあった、開花しかけのストレリチア。
あれは私の好きな花だった、はず。
確か、あれの花言葉って。

「…漸く早織の全てを手に入れられると、そう思ったんだがな?」

 


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